米市場は、FRBのバランスシート縮小を警戒

 では、そうした「カネあまり」状況が終わりに向かっているのではないかと米株式市場が警戒感を強めやすい材料は何だろうか。筆者の見るところ、それはFRB(連邦準備理事会)のバランスシート縮小である。市場から買い入れて保有している住宅ローン担保証券(MBS)や国債などの満期償還を放置すれば、FRBのバランスシートは縮小し、ストックアプローチと呼ばれる考え方に従えば、金融緩和効果は減少する。それを防ぐためにMBSや国債をつなぎ購入してバランスシートの規模を維持しているのが再投資政策である。FRBは2015年12月、2016年12月、2017年3月と利上げに動いており、おそらくあと1~2回利上げした後で再投資政策の見直し(段階的な縮小・廃止)に動くとみられている。

 この再投資政策の見直しを最も警戒しているのは、株式市場ではなく、債券市場である。FRB(実際に動くのはニューヨーク連邦準備銀行)による国債の買い入れが減ると、需給が緩んで利回りが上昇するのではないかという警戒感が強い。だが、金利上昇はあまり警戒する必要がないと、筆者は楽観的にみている。むしろ警戒すべきは、株式市場におけるセンチメントの不安定化ではないか。

バランスシートの縮小は時間をかけて慎重に行われるだろう

 再投資政策見直しを材料にした大幅な金利上昇を筆者が見込まない1つの理由は、市場で実際にオペレーションを行うニューヨーク連銀のトップであるダドリー総裁が、不必要なショックを市場に及ぼすことのないよう慎重な舵取りを心がけると明言していることである。5月のFOMC(連邦公開市場委員会)議事要旨からもうかがえるように、事前にアナウンスした小刻みなペースに沿って段階的に、おそらく数年単位の時間をかけつつ、バランスシートを縮小させるのだろう。内外経済や金融市場に不測の大きな異変が仮に生じるようであれば、縮小プロセスが停止されることも十分考えられる。

 それ以上に重要なのは、すでに触れたように、FRBのバランスシート縮小が米国株に及ぼす影響である。過去3回のQE(量的緩和)のうち、「信用緩和」の色彩が濃いMBS等の購入のみが行われていた時期は除いて、純粋な量的緩和だと考えられる米国債の購入が行われていた時期に着目すると、3回のいずれにおいても、株価が大きく上昇しており、その裏側で米10年債利回りは明確に上昇していた<■図1>。

■図1:米国の量的緩和(QE)3回のうち国債購入が行われた時期における、NYダウと米10年債利回りが動いた方向
国債購入決定の前月と、購入が終了した月 ニューヨークダウ工業株30種平均(月末) 米国債10年物利回り(月末) 国債買い入れ期間の株・金利のベクトル
QE1 2009年2月 7,062.93ドル 3.02% 株価上昇・長期金利上昇
2009年10月 9,712.73ドル 3.41%
QE2 2010年10月 11,118.49ドル 2.63% (同上)
2011年6月 12,414.34ドル 3.18%
QE3 2012年11月 13,025.58ドル 1.62% (同上)
2014年10月 17,390.52ドル 2.35%
注:QE1は2008年11月にMBS等の購入開始決定。QE3は2012年9月にMBS等の購入開始決定。
(出所)FRB、NYSE資料より筆者作成

再投資政策の見直し、QE実施時の「逆回転」が起きるリスク

 再投資政策の見直しに際しては、「カネあまり」状況の変化をイメージして米株式市場が過敏に反応してしまい、QE実施時の「逆回転」が起きるリスクがある。その場合、米国の長期金利は上昇ではなく、逆に低下することになる。

 もう1つ、「カネあまり」の持続性を考える際に大いに注目すべきポイントは、物価上昇の鈍さが日米欧の金融政策に今後どう影響してくるかである。

 筆者は以前より、財・サービス別の消費者物価指数(日米はCPI、ユーロ圏はHICP)のうち、原油価格や為替相場の動きによって前年同月比が上下に振り回されやすい財ではなく、サービスを重視しており、その水準・方向感によって物価の基調を見極めるという考え方を採っている。直近の状況をレビューしておきたい。