米国の金融当局は、市場の警告はそれ相応に、真摯に受け止めるべきだ(写真=UPI/amanaimages)

 米国の債券市場では5月中旬にかけて、長期金利の代表格である10年物国債が売りを浴びて、相場が徐々に下落(利回りが徐々に上昇)。このことが為替市場で一時111円台まで円安ドル高が進行する主因になった。

 米10年債利回りは、昨年3月に記録した2.62%、一昨年12月に記録した2.64%を今年1月にブレークし、水準を切り上げた。5月15日には、2014年1月2日に記録した重要な節目である3.05%を超えて、利回りは一時3.09%まで上昇した(11年7月8日以来の水準)。

 直接の相場下落(利回り上昇)材料は、米4月の小売売上高などこの日発表された米国の経済指標が市場の事前予想よりも強めだったことである。だが、別に驚くほどの数字が出てきたわけではなかった。

 もともとは「小さな政府」志向が強い共和党の政権であり、同党が上下両院の過半数を占めているにもかかわらず、減税と歳出拡大の両面で財政の拡張が進められており、財政赤字幅拡大・国債増発が、債券市場の地合いを悪くした。

 そうした中で、上記の節目水準を試そうとする一部市場参加者の思惑的な動きがワークして損失確定目的の売りがかさんだテクニカルな動きが、節目突破の主因だったとみられる。17日には利回りが一時3.12%になる場面もあった。

 もっとも、その後はイタリアの政治情勢・ユーロ圏離脱懸念などを材料に「リスクオフ」(リスク回避志向が強い状態)へと市場が全般に傾く中で、米10年債利回りは水準を切り下げ、29日には一時2.75%まで低下した。

利上げに動くには材料不足

 米長期金利の2.6%台前半を超えての今般の水準切り上げには、ファンダメンタルズ面のしっかりした裏付けが伴っていなかったように思われる。むしろ、米4月の雇用統計における時間当たり賃金の伸び悩みから、グローバル化およびIT化(デジタル化)という、構造的な賃金・物価抑制要因の健在ぶりが確認されたところである。

 失業率が低下を続けても、経済が外に開放されているので、賃金の感応度は鈍い。また、米4月の消費者物価指数では、エネルギーと食品を除いたコアの数字が、市場予想比下振れの前月比+0.1%にとどまった。賃金・物価面からは、FRB(連邦準備制度理事会)があわてて利上げに動く材料が乏しいことを示すエビデンスが出てきているのが実情である。

 したがって、インフレ圧力の増大と利上げペースの加速を警戒して、米10年債利回りがこの先、3.5%や4%へと水準を一段も二段も切り上げたり、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)がベアスティープ化(金利が上昇しながらの急傾斜化)方向に動いたりするとは、筆者は全く考えていない。当然、対円でのドルの上昇余地は乏しい。

 米10年債利回りが節目の水準をいったん超えたことは確かである。だが、以下に列挙する4つの要因のうちいくつかが意識される中で、今年の後半には、米長期金利は逆に低下していき、2%台前半のレンジに回帰するのではないかと、筆者は予想している。

  • 米国の景気指標に減速感が出てくる公算大
  • 米国株の再度の不安定化・急落
  • 米国債利回り曲線(イールドカーブ)の一層のフラット化(平坦化)さらには「逆イールド」発生
  • 米国への投資マネー還流(リパトリ)による新興国経済の悪化