「アベノミクス」の司令塔、石原大臣の発言を追ってみる

 この間、政府側の認識はどうだろうか。世間で評判が悪いマイナス金利政策からは距離を置きたがっていることを漠然と感じさせる閣僚の発言が散見されているのだが、ここではまず、「アベノミクス」の司令塔である石原伸晃経済再生担当相が記者会見で発した関連発言を、時系列で追ってみたい(内閣府ホームページから引用)。

◇「もう少し見守っていくということが肝要なのではないでしょうか」(2月2日)

◇「現時点としては、もうしばらく、その1段先の効果がどうであるかということを見守っていくということが肝要なのではないかと思っています」(2月9日)

◇「そういう形で(マイナス金利の)表層的な影響は出てきていますが、今日から実施されるわけですので、二次的な影響については分析する時間を頂戴したい」(2月16日)

◇「マイナス金利が実質的に適用されたのは2月中旬からです。まだ1か月弱ですので、もう少しスパンをとって、もう少し実態を見ないと、本当の影響は分からないのではないでしょうか」(3月15日)

◇「金利が下がれば投資や融資の金利が下がるわけですので、投資や消費の拡大につながることを期待しているわけですが、実体経済への影響は、まだ1か月で分析の結果も様々です」「いい面もしっかりと発信していかなければならないので、もう少し、3か月ぐらいの間、状況を見極めることが重要なのではないでしょうか」(3月22日)

◇「日銀がおっしゃっているとおり、もう少し長く物を見ていく必要があると思います。初めてのことですから、本当のところは、現時点では誰にもわからないのではないでしょうか」(4月28日)

(内閣府ホームページ 石原内閣府特命担当大臣 記者会見要旨)から)

 石原大臣の場合、マイナス金利が実体経済に及ぼす効果の有無・大小について、5月中旬もしくは6月中旬くらいまでは状況を見極めたい意向のようである。

 これに対し、内閣府とともに日銀金融政策決定会合に代表者が毎回出席している財務省のスタンスは、やや異なる。

 3月23日の参院財政金融委員会で麻生太郎財務相は、「この種の話は少々時間をかける必要がある」「私どもは基本的に中期的に見守っていく必要があると申し上げている」「(石原大臣が言及した『3か月くらい』よりも)もう少し時間がかかるような気がする」と答弁した。

 ここで問題とすべきは、石原大臣の「3か月ぐらい」にせよ、麻生大臣の「もう少し」長い時間にせよ、そうした時間的区切り目が到来した際に、マイナス金利政策の効果は乏しいという評価を下す一方で、銀行収益を過度に圧迫して金融システムの円滑な作動を妨げるといった弊害・副作用が大きいということを、政府側が日銀に対して正面から物申すことができるかどうかである。

 だが、安倍晋三首相が5月16日の衆院予算委員会で「日銀の金融政策を支持している」と明言したことなどに鑑みると、そうしたことは期待薄だと言わざるを得ない。

実験的な金融緩和についての「現状維持バイアス」

 最後に、筆者が非常に気になっていることを書いておきたい。それは、政府・日銀内で日銀の実験的な金融緩和について、「現状維持バイアス」とでも呼ぶべき雰囲気が広がっているという指摘が出ていることだ。

 4月12日の朝日新聞に掲載されたコラム「波聞風問」によると、当局者たちが将来のリスクに目をつぶって目先の安定を求め、「とりあえず現状維持で」という気分になっていないとは限らないと考えて、コラム執筆者はそうした疑問を財務省や日銀の関係者にぶつけてみた。すると、全員が「一刻も早く出口を迎える方がいいに決まっている」と否定しつつも、何人かは「一人一人はそう思っている。ただ、組織としては結果的に今の状態が楽だという気分になりかけている」という言い方で、付け加えたという。

 「慣れ」は、「惰性」を通じて、「正常化意欲の低下」という望ましくない結果を招きやすいのではないか。本来はそうあるべきではない状況だということを常に意識し続ける根気や粘り強さが、政策当局者に非常に強く求められる局面である。

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