米国以外のイラン核合意の当事国は、米国が離脱した後も合意を維持する方針である。穏健派であるイランのロウハニ大統領は、当面は核合意を遵守する意向を表明した。イランがすぐに核開発(高濃度のウラン濃縮)を再開し、これに対してイスラエルが空爆に踏み切るなどして第5次中東戦争が勃発するような事態は、現時点では実現する確率が低いリスクシナリオの域を出ていないと、筆者はみている。

 ただし、経済状況の悪化を背景に、イラン国内で穏健派が守勢に回っている(しかもイランの最高指導者ハメネイ師が反米強硬派である)点は、今後の懸念材料と言わざるを得ない。

 また、米国は180日間の猶予期間を経てから、イランに対して原油取引関連の制裁措置を再発動する方針である。したがって、それまでの間に米国と英独仏の間でイラン核合意見直しについて何らかの妥協が成り立つ可能性も残っている。

 さらに、仮に米国による経済制裁の再開をうけてイランからの原油輸出量が減少しても(16年1月の経済制裁解除前はイランの原油輸出は日量100万バレル程度減少していた)、原油需給ひっ迫による急激な価格上昇が世界経済全体を悪化させるような事態は起こりにくいと考えられる。OPECやロシアなどが実施している協調減産の部分的緩和(サウジアラビアなどによる増産)によって、原油不足の慢性化と価格急騰は回避され得る。

原油価格上昇の微妙なさじ加減

 むろん、サウジアラビアの原油戦略は、市場におけるシェアではなく価格水準を重視する方向へと大きくシフトしており、4月のロイター報道が示す通り、同国が中期的に目指す原油価格の水準は切り上がった可能性が高い。

 違反増産がほとんどみられない(規律が維持され足並みが揃っている)OPEC主導の協調減産とサウジアラビアの戦略変更によって、米原油先物(ウェストテキサスインターミディエート)のレンジは、従来の1バレル=40~60ドル前後から10~15ドルほど上方にシフトして、50~75ドル前後になったのではないかと、筆者はみている(5月中下旬には一時72ドル台まで上昇。もう1つの代表的油種である北海ブレントの先物は一時80ドル台に乗せた)。

 OPECが公表している原油バスケット価格は5月22日時点で77ドル台まで上昇しているのだが、このベースで言えば、新たなレンジは55~80ドル程度になり、上限が80ドル台に乗せることになると見込まれる<図1>。サウジが想定する新しいレンジに入り、原油価格の上昇には一服感や達成感が生じやすいだろう。

■図1:OPECが算出している原油バスケット価格
■図1:OPECが算出している原油バスケット価格
(出所)OPEC
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 けれども、急激かつ大幅な原油価格の上昇によって世界経済が悪化し、原油需要が減退すると、原油価格の大幅反落と原油収入の減少につながってしまうため、OPECやロシアは原油価格の押し上げでは決して無理できない。「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。

 整理すると、原油価格はもう少し上昇しそうだが、世界経済全体が大きく悪化することにはつながらないというのが、メーンシナリオになる。微妙なさじ加減が要求される話であり、本当にそううまくいくのかどうか、情勢を日々注視していく必要がある。

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