では、米朝直接対話が行われる結果、北朝鮮による核兵器保有断念を含む「朝鮮半島の非核化」は、本当に実現するのだろうか。

 米国は遅くともトランプ大統領の任期が満了する2021年1月(というよりも実質的には2020年11月の次の大統領選挙)までに「朝鮮半島の非核化」を実現したいようであり、日本の河野外相もそうした時間軸を設定する考え方に同調している。要するに2年程度という期限を区切って核兵器放棄を実現させるスケジュールを固めて、過去に見られたような北朝鮮の引き延ばし戦術を封じたいわけである。

 だが、そううまくは運ばないだろうというのが、筆者が以前から掲げている見方である(当コラム4月17日配信「金正恩委員長の『巧みすぎる外交術』~『朝鮮半島非核化』は理想論にすぎない」ご参照)。北朝鮮の現体制からすれば、核兵器・弾道ミサイルはまさに「命綱」である。

 よほど彼らに有利な条件でない限り、それらの完全放棄にイエスとは言わないだろう。仮に言ったとしても、いろいろと口実を見つけては先延ばしを図る可能性が、やはり高いように思われる。

もう核実験は必要ない

 朝鮮労働党は4月20日の中央委員会総会で、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止、核実験中止の透明性を担保するための核実験場閉鎖を決定した。しかしこの決定は、すでに明らかになっていた米国との直接対話の前提条件をオーソライズしたものにすぎず、新味がない。しかも、すでに核兵器を戦力化しているのでさらなる実験は不要になったがゆえの決定でもある。

 確かに「前進」ではあるのだが、マーケット用語で言えば「織り込み済み」である。しかも、日本の安全保障にとり重要な中距離弾道ミサイルについては言及がなく、米韓と日本の離間を狙った仕掛けではないかという見方もできる。さらに、すでに保有して配備しているとみられる核弾頭や弾道ミサイルの取り扱い(全部または大部分の廃棄)については触れられていない。

 また、核兵器の完全放棄を北朝鮮があっさり受け入れる場合には、北朝鮮国内で民心が動揺して政権の求心力が低下し、社会情勢が不安定になる恐れもある。

 2017年に暗殺された金正男氏(金委員長の異母兄)に単独インタビューをしたことで有名な東京新聞論説委員・五味洋治氏の近著『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』は、2012年4月に改正された北朝鮮の憲法が序文で金正日の功績について、祖国を「不敗の政治思想強国、核保有国、無敵の軍事強国」に変えたとしていることを紹介。「核保有国」の立場が明記されていると指摘した上で、「このため、北朝鮮の国民にとって核保有は当然のことになっている。条件を付けて核を放棄、何かと交換するなど想像もつかないのだ」と結論付けた。

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