「A君は気負った様子もなく、ごく自然に自分の考えを口にした。習近平氏が国家主席を終身で続けられるようになったことについて質問した時の出来事だ。『強いリーダーがずっと続けるのはいいことだと思う。能力のない人が上に立つよりいい』」

 「筆者は彼の言葉に大きなショックを受けた。20代のA君は中国と日本の双方で教育を受けた。現在は中国で働いているが、民主主義国家・日本を肌感覚で知る若者である」

 「筆者は、彼なら『個人崇拝が強まるようで不気味ですね』『統制が厳しくなって怖いですね』といった回答をすると思い込んでいたのかもしれない。日本をよく知るA君から想定外の答えが返ってきて動揺した」

 「A君がこう考える最も大きな理由は、民主主義を掲げる先進国の経済が停滞する一方で、中国が目覚ましい経済発展を遂げてきた点にあるだろう」

 「米国は3月下旬、鉄鋼やアルミの輸入制限に加え、知的財産権の侵害を理由に対中制裁を発動すると公表し、“貿易戦争”の口火を切った。自由・民主主義が最良と信じる米国と、先進国とは異なるモデルでその鼻を明かそうとする中国。こうした図式で考える人たちが双方の政府にいるならば、冷戦期と同様のイデオロギー論争を引き起こし、貿易戦争は思った以上に深刻になるかもしれない」

 さらに、若い世代に限らず、日本人全体で見ても、日本の政治制度や政治家、さらには不祥事が最近目立つ官僚に対する信頼感が意外に低くなっていることを示す、筆者にとっては実に衝撃的な世論調査の数字が出てきている。

日本の政治の仕組みを56%が「信頼していない」

 読売新聞は3月29日朝刊に、同紙と早稲田大学が共同で実施した世論調査の結果を掲載した。全国の有権者から無作為に3000人を抽出し、1月23日に調査票を郵送して2月28日までに返送された1822人の回答を集計したものである。

 それによると、日本の政治の仕組み(=日本国憲法で定められた民主主義に基づく政治制度)を「大いに信頼している」という回答は2%に留まり、「多少は信頼している」の40%を加えても計42%で、半分に届かなかった。これに対し、「あまり信頼していない」が47%、「全く信頼していない」が9%で、計56%が「信頼していない」派である<図表1>。

■図1:読売・早大共同世論調査 日本の政治の仕組み・政党・政治家・官僚の信頼度
■図1:読売・早大共同世論調査  日本の政治の仕組み・政党・政治家・官僚の信頼度
(出所)読売新聞
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 また、政党については「信頼している」計39%に対し、「信頼していない」が計60%。政治家については「信頼している」計27%に対し、「信頼していない」が計73%。官僚については「信頼している」計29%に対し、「信頼していない」が計70%になった。日本の政治家や官僚に対する不信感が、財務省による学校法人への国有地売却を巡るスキャンダルなどもおそらく影響して、足元でかなり大きくなっていることがわかる。若い世代で特にそうした不信感が強くなっており、18~39歳では政党を「信頼していない」が計70%、政治家を「信頼していない」が計83%に達した。

 上記の世論調査が実施された1~2月から、事態はさらに悪化している。現実の出来事に根差した政治家・官僚不信の高まりを早い段階で沈静化させることができなければ、日本の民主主義制度そのものへの不信感を抱く向きが、上記の調査実施時点の56%からこの先さらに増えていく恐れがある。

 むろん、日本の未来を決めるのは今の若い世代であり、筆者が含まれる古い世代は徐々に退出していく世代にすぎないわけなのだが、長い歴史の中で多くの人々の苦労の結晶として出来上がった民主主義に基づく政治制度が、そう簡単に不信感を浴びて捨て去られてしまってよいものではないだろうと、筆者はどうしても考えてしまうのである。

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