さらに、共和党内の亀裂が一層深まることを警戒する見方もある。コーンNEC委員長の辞任で「自由貿易」という共和党の伝統的に大切な理念が覆されたと感じた党員の「トランプ離れ」が進むのではないか、ライアン下院議長が中間選挙で出馬を見送るのではないかといった観測である(「日本版ニューズウィーク」3月20日号)。
中間選挙の結果、弾劾手続きが開始される可能性も
11月6日に投開票される中間選挙の結果、仮に民主党が上院だけでなく下院でも過半数を奪還するなら、トランプ大統領の弾劾手続きが開始される可能性が高まる。
合衆国憲法第2条第4節は、「大統領、副大統領および連邦政府職員は、国家反逆、贈収賄あるいは他の重大犯罪や非行行為によって弾劾されたり有罪判決を受けたりした場合には解任されるものとする」と規定している。そして、罪を問う弾劾訴追を行う権限を下院に、弾劾裁判を行う権限を上院に付与している。下院は訴追に相当するかどうかを審議し、本会議で過半数の賛成があれば訴追される。そして、上院で行われる弾劾裁判は、訴追対象が大統領の場合は連邦最高裁長官が裁判長になって行われ、下院の代表が検察官役の訴追委員、上院議員100人が陪審員を務める。訴追された条項のうち1つでも出席議員の3分の2が有罪に投票すれば、大統領は罷免される決まりである(罷免の場合は副大統領が大統領に昇格する)。議員の過半数の同意により弾劾裁判を途中で打ち切ることもできる。
実際に大統領の弾劾裁判が行われた事例はこれまで2つ
実際に大統領の弾劾裁判が行われた事例はこれまで2つしかない。ウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領(共和党)の場合、1974年に下院司法委員会が弾劾決議案を可決した時点で辞めており、弾劾裁判には至らなかった。
弾劾裁判の最初の事例は1868年のアンドリュー・ジョンソン大統領(民主党・第17代)。この時は辛くも1票差で無罪が確定した。
もう1つの事例は、1998~99年にクリントン大統領(民主党)の不倫もみ消し疑惑に関して行われた弾劾裁判である。1998年1月に疑惑が発覚し、スター独立検察官が捜査を開始。その捜査報告書に基づいて、偽証・司法妨害の2点について1998年12月19日に下院本会議で過半数が賛成してクリントン大統領は訴追され、上院に舞台を移して弾劾裁判が行われた。当時の上院の勢力分布は、共和党55、民主党45。政治的な駆け引きが展開された末、1999年2月12日に偽証・司法妨害のいずれについても無罪になった。投票結果は、偽証が有罪45・無罪55、司法妨害が有罪50・無罪50。罷免に必要な3分の2どころか過半数にも届かずに、クリントン大統領の無罪が確定した。
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