悪しき慣行の見直しに取り組む首相のメッセージに共感

 「長時間労働が当たり前」「長時間働くのが美徳」「早く帰るのは会社の組織風土の中では異端だ」といった、筆者も見聞きすることがあった日本の悪しき慣行の見直しに取り組もうという安倍首相のメッセージに、筆者は強い共感を覚える(付言すると、日銀の金融緩和への過大な期待など、経済政策の面で意見が異なることが多い筆者の場合、これは珍しいことである)。

 しかし、この「働き方改革」は、前途多難だと言わざるを得ない。

 まず、この改革は、視点(主たる狙い)が定まっていない。

 すでに述べた経緯などから浮かび上がるように、今回の働き方改革は、①少子化対策および女性の社会進出を推進することに主たる狙いがあるのか、それとも、②社会問題と化している非正規雇用の待遇改善(同一労働同一賃金の実現)が最重要なのか、あるいは、③過労死事件の発生でやはり社会問題となっている長時間労働の是正(残業規制強化)が最大の目玉なのか、それとも、④経営サイドから要望が根強い「ホワイトカラー・エグゼンプション」など賃金制度の抜本見直しが実は最大の主役なのか。

生産性が向上しないと、「仕事が回らない」事態も

 さらに、仮に上記③が早期に実行に移される場合、労働者の業務遂行において生産性がにわかに向上しないと、労働時間の制約から半ば強制的に退社させられて、いわゆる「仕事が回らない」事態に陥ってしまうケースも考えられる。これは当面の経済活動にとり、ネガティブとなる可能性が高い。また、エコノミストの間では、残業代の支払い額がマクロで顕著に減少した場合、個人消費に下押し圧力がかかるのではと危ぶむ声もあがっている。

 もう一つ、筆者が危惧しているのは、女性・高齢者の積極活用や「働き方改革」に政府が注力するあまり、日本経済の長期停滞さらには衰退に結びつく可能性が高い人口減・少子高齢化の着実な進行という問題への取り組みがおろそかになってしまわないかという点である。

おろそかになる人口減・少子高齢化対策

 安倍首相は2016年9月21日にニューヨークで講演した際に、次のように述べた。

 最後に、良いニュースをお伝えして、スピーチを締めくくりたいと思います。私は、日本の人口動態に全く懸念を持っていません。日本では、この3年で生産年齢人口が300万人減少しました。しかし、名目GDPは成長しました。

 今を嘆くより、未来を見つめましょう。日本は高齢化しているかもしれません。日本は人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が、我々に改革のインセンティブを与えます。我々は、生産性を高めようとし続けます。ロボットからワイヤレスセンサー、ビッグデータからAIまで、全てのデジタル技術、新しいものを活用しようと思い続けます。ですから日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなく、ボーナスなのです。

官邸のウェブサイト 2016年9月21日「安倍総理と金融関係者との対話」