「ダムの水」が干上がってきた?(写真=ロイター/アフロ)
日経平均株価が1万7000円台を回復するなど、3月に入ってから株価は安定を取り戻しつつある。だが、かつて日銀が「ダムの水」に例えたこともある企業収益がここにきて下振れし始めたことは見逃せない。
企業の設備投資や賃金交渉に、悪影響が徐々に広がるだろう。景気回復や物価上昇の原動力が失速しつつあることにより、政策の選択肢がすでにかなり狭くなっている政府・日銀の立場は今後、一層苦しいものになりかねない。
財務省が3月1日に発表した昨年10-12月期の法人企業統計調査で、全産業(金融業、保険業を除く)の経常利益は17兆7630億円、前年同期比▲1.7%になった。マイナスになったのは、東日本大震災発生後の景気落ち込み局面だった2011年10-12月期以来16四半期ぶり(4年ぶり)。「アベノミクス」開始後では初めてである。また、季節調整済前期比は▲1.5%で、7~9月期の同▲7.5%に続いての減益になった。
一方、10~12月期の売上高は331兆8402億円、前年同期比▲2.7%で、3四半期ぶりのマイナス。季節調整済前期比は▲1.6%で、4四半期連続のマイナスである。
売上高は、ここ5年ほどは310~350兆円程度のレンジで、一進一退の動きをしてきた<図1>。
■図1:売上高と経常利益 全産業(金融業、保険業を除く)
(出所)財務省
にもかかわらず、経常利益は過去最高を更新する水準まで増えた。これには原油価格下落をうけて変動費が減少したことや、雇用・賃金コスト抑制姿勢を企業が堅持したことなどが寄与している。
だが、肝心の売上高の減少が予想外にきつくなると、コストの減少や抑制だけでは(少なくとも短期的には)カバーできなくなり、利益は減少することになる。
①長引いている個人消費の停滞、②中国など新興国の景気減速、③為替相場の円高方向へのレンジシフトの3つはいずれも、日本企業の売上高に対して、強い逆風になっている。
同じ3月1日にQUICKから公表されたコンセンサスDIは、上記①~③を含むさまざまな環境の変化を受けて、企業アナリストが主要企業の収益見通しに関し、下方修正の動きを強めていることを浮き彫りにした。
コンセンサスDIは、アナリストが予想連結純利益を3カ月前時点に比べて3%以上、上方修正した銘柄を「強気」、下方修正した銘柄を「弱気」と定義。そのうえで、「強気」銘柄が全体に占める比率から「弱気」銘柄の比率を差し引いて算出した、リビジョンインデックス(アナリストによる業績予想修正を指数化したもの)の一種である。5社以上のアナリストが業績を予想する銘柄が対象になっている。
対象となる業績予想は、月末時点から数えて3四半期(9カ月)程度先が期末となる決算期で、3月期決算銘柄の場合は12月末(翌年1月発表)から来期予想に切り替わると、QUICKでは説明している。
2月になってマイナス幅が拡大
2月のDIは、全産業(金融含む)が▲20で、4カ月連続のマイナス。昨年11月から今年1月まで▲3が続いていたが、2月になってマイナス幅が一気に拡大した<図2>。
■図2:QUICKコンセンサスDI(全産業・金融含む)
(出所)QUICK
2月のコンセンサスDIの内訳を見ると、製造業が▲35で、6カ月続けてマイナス圏の数字。しかし、それよりもはるかに重要だと筆者がみているのが、非製造業が▲3になったことである。2014年10月以来、16カ月ぶりのマイナスである。
同年4月に消費税率が引き上げられた後の個人消費落ち込み局面を脱してからでは初めて、非製造業の収益見通しの変化方向が、下向きに変わったわけである。
10~12月期の法人企業統計調査において、非製造業の経常利益は前年同期比+12.7%で、プラス幅を縮小しつつも11四半期連続のプラスだった。製造業の同▲21.2%とは対照的な数字だったわけだが、その非製造業においても、風向きはどうやら変わりつつあるようである。
非製造業について業種別のDIを見ると、「卸売」が▲75という大幅なマイナス。資源安長期化の中で商社が苦闘していることから考えて意外感はない。
しかし、「小売」が▲3になったことは重要だろう。マイナスの数字は15年2月(▲12)以来で、状況の変化を感じさせる。
「不動産」はプラス圏の数字(+13)だが、幅は1月の+43から急縮小した。「サービス」は▲38で、幅を拡大しつつ、4カ月連続でマイナスの数字になった。
下方修正の流れは続くのか?
このほか、金融の業種別DIで「銀行」が▲15に悪化したことが特徴的である。1月の▲8に続いてのマイナス。日銀が1月29日に導入したマイナス金利は銀行の収益を圧迫する材料だとみなされて、市場で銀行株が急落する原因になった。
コンセンサスDIの累積値(全産業・金融含む)と日経平均株価(月末)を重ねてグラフにしてみた<図3>。
■図3:QUICKコンセンサスDI累積値(全産業・金融含む)と日経平均株価
(出所)QUICK、日本経済新聞
企業業績見通しが下方修正される流れがこのまま続く場合には、日経平均株価など主要株価指数には、さらなる下値切り下げの余地が出てきそうである。
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