③「トランプ減税」早期実行を阻む「3つの高いハードル」
【1】スケジュール
税制改革は、(A)オバマケアに代わる社会保障改革、(B)2018会計年度予算の2つをこなした後の3番目というスケジューリングになっている。また、「国境調整」の問題をどうするかを含む税制改革の詳細に関するホワイトハウスと議会の調整にも、時間がかなりかかるだろう。
【2】財源(中長期で「財政中立」にする必要性)
大型減税を実行しようとする場合、財源の問題が重くのしかかる。法人税の税率を35%から15%へ引き下げる場合、穴埋め策として現在考えられているのは、(A)各種控除の縮小・廃止による税収上積み、(B)軽減税率適用をテコにして企業の海外留保利益を国内に還流させる措置、(C)歳出大幅カット、(D)減税による景気刺激効果を勘案して名目成長率を高めに置くことによる将来の自然増収の想定、以上4つである。
だが、(A)は増税措置であり、景気刺激効果をそぐ。(B)は基本的にワンショットの増収策であり、恒久財源ではない。(C)は景気に悪影響を及ぼして税収を圧迫する上に、トランプ大統領は社会保障費のうちメディケアなどの歳出水準維持と国防費大幅上積みを行うとしており、削れる部分がかなり限られる。(D)は、議会の両院税制合同委員会(JCT)の判断がカギになると、ロイターが報じた。税制変更がマクロ経済にどう影響して税収がどうなるかのフィードバック効果を判断するのはJCTであり、過度に恣意的な数字にする(きわめて高い後年度の税収を想定する)のは困難ではないか。
なお、トランプ政権で行政管理予算局(OMB)長官に就任したのは債務上限引き上げに反対する超保守派下院議員として知られたマルバニー氏であることも見逃せない。
【3】議会を通すことの難しさ
経済政策面で共和党が最優先事項としているオバマケアの撤廃には、民主党が当然反対する上に、代替案をどのようなものにするかで共和党の内部は一枚岩になり難い。また、上院で共和党は52議席しかない(60議席に満たない)ので、財政調整法を絡めるか規則を改正しない限り、法案の審議・採決において民主党による議事妨害(フィリバスター)を排除することはできない。
共和党指導部は、造反すればオバマケア撤廃の好機を逸することになるという強気の論法で改革案の審議・採決を行う方針と伝えられるが(2月28日 ウォールストリートジャーナルアジア版)、議会通過に失敗すれば、減税はますます後ずれする。
ストラテジーやロードマップを持たないまま「大風呂敷」を広げすぎの感が強い上に、人事でもたついたままのトランプ政権は、行き詰まり感を今後強めるのではないか。4年の任期を全うできない可能性さえ完全には排除できない。筆者はそのように考えている。
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