国債イールドカーブの形状は「適切なもの」と事実上追認

 そうした中、2月9日に高知で講演・記者会見を行った中曽宏日銀副総裁は、2%の物価目標の達成がまだ遠いことから、10年債利回り「ゼロ%程度」に設定されている長期金利ターゲットの引き上げにあわてて動くつもりはなく、粘り強く緩和を続けていくとした。

 その一方で中曽副総裁は、「イールドカーブ・コントロール」の実際の運営には金融政策決定会合でガイドラインのようなものは設けることはせず、現場(金融市場局)のオペレーションデスクに運営を委ねるということでよいとの考えを表明した。

 そして、記者会見で最後に向けられた質問「先程から、『最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促す』という発言がありますが、現在の金利は適切な水準にあるのでしょうか」に対して中曽副総裁は、「繰り返しになりますが、今の経済・物価・金融情勢を踏まえると、現在の短期が▲0.1%程度、長期金利の10年物が『ゼロ%程度』と、このもとで形成されている現在のイールドカーブは適切なものだと認識しています」と明言した。

 これは、40年債が1.0%台、30年債が0.8~0.9%台、20年債が0.6%台というところまで上昇した超長期ゾーンの金利水準を含めて、発言があった2月9日時点の国債イールドカーブの形状は「適切なもの」だとオーソライズし、事実上追認したものだろう。筆者はそのように理解している。

副総裁の講演の資料には、10年超から急角度で上昇する図表

 付言すると、副総裁の午前中の講演原稿に添付された図表には、短期政策金利(▲0.1%)と長期金利操作目標(ゼロ%程度)の2か所のみで「ピン留め」されたイールドカーブが、10年を超えたところから急角度で上向いている直近の状況が示されていた。

 債券市場参加者の多くは、イールドカーブの形状に関する日銀の評価はコントロールが導入された当初と比べてずいぶん変わったなという印象を抱いている。「信じてみたけれど裏切られた」という思いを抱いている向きも少なくないだろう。

 この問題に関する経緯を整理して、振り返ってみよう。

 黒田東彦総裁は、「イールドカーブ・コントロール」を導入した昨年9月21日の金融政策決定会合終了後の記者会見では、「現時点においては、現時点のイールドカーブは概ね妥当ではないかと考えています」と述べていた。

 だが、この発言には「現時点においては」という限定句がしっかり付いていたことが、後で振り返ってみれば重要だった。これは言うまでもなく、政策当局者があとで言い訳できるように付けておく常套句である。

 その次、11月1日の金融政策決定会合終了後の記者会見で黒田総裁は、「全体としてのイールドカーブは概ね前回の会合通りであり、特に違和感はありません」と発言。「概ね妥当」とした9月の発言からトーンダウンした。

 黒田総裁はさらに、超長期ゾーンの金利について、「2つの点を操作目標として示し、マーケットでイールドカーブが全体として整合的で、適正な形になると想定しておりまして、先行きの経済・物価に対する見方などを反映して、上下に変動しつつも、金融市場調節方針と整合的な形で市場において形成されていくものであろうと認識しています」と発言。市場における上下動を経て形成されるものだという認識を前面に出した。

超長期ゾーンでは、力ずくで押さえ込まないというメッセージか

 超長期ゾーンでは日銀のグリップが弱い、つまり金利の上昇を力ずくで押さえ込むような行動はこのゾーンでは基本的に取らないつもりだというメッセージを日銀は発信したつもりだったのだろう(実際にその時にそう受け止めた市場参加者は少なかったのだが…)。

 そして、いわば「最後の一撃」になったのが、すでに触れた2月9日の中曽発言である。

 国内債券相場は引き続き、「日銀依存」の様相がきわめて濃い。日銀の「心中」を慮って、あるいは市場調節の微妙な変化をにらみながら、今後も動くことになるだろう。

 ただし、すでに述べた通り、運用先を求めるマネーが大量に蓄積しているのもまた事実である。4月から新しい年度に入り、国内機関投資家の多くが債券の運用の面で動きやすくなると、超長期ゾーンの国債がじわじわ買われて利回りが下がる中でイールドカーブは金利が低下しつつ平坦化(ブルフラット化)していくだろうと、筆者は予想している。

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