ユーロ圏は+1%前後に張り付き、上向きの動きは今のところなし

③ユーロ圏<■図3>

■図3:ユーロ圏 HICP(総合) 財、サービス別
■図3:ユーロ圏 HICP(総合) 財、サービス別
(出所)ユーロスタット
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 労働組合の組織力・賃金交渉力が日本や米国よりも強いはずのユーロ圏だが、賃金動向を反映するサービスの価格は、前年同月比+1%前後に張り付いたままである。ユーロ圏の景気が足元ではっきり復調しているにもかかわらず、上向きの動きはまだ出てきていない。

 したがって、年内といった早い段階での金融緩和縮小論や金融引き締め論から、ECB(欧州中央銀行)の首脳陣は明確に距離を置いているようである。

「納得のいく上昇トレンドの兆候は見られない」

 ドラギ総裁は1月19日の定例理事会終了後の記者会見で、「基調的なインフレが納得のいくような上昇トレンドにある兆候は見られない」「総合インフレ率は短期的に主にエネルギー価格の前年比での動きを反映して一段と上昇する公算が大きいが、基調インフレ率は中期的に一段と緩やかに上昇すると想定している」と発言。

 2月2日にはプラート理事が、「インフレ率が中期的に2%に近い水準で推移する状態に向けた持続的な調整軌道には、現在は達していない」「インフレがわれわれの物価安定目標に沿う水準近辺で安定するまでには時間がかかる」「ECBはインフレの過渡的変化は重視せず、基調的なインフレの力学に焦点をあて続ける」と述べた。

「反グローバル化」のうねりは続く

 その上、今年は重要な国政選挙がオランダ、フランス、ドイツ、そしておそらくイタリアでも行われるほか、英国のEU(欧州連合)離脱通告とその後の交渉という息の長いリスク要因もある。

 より詳しく説明しておくと、まず3月15日にはオランダで総選挙が実施される。直近の世論調査を見ると、ウィルダース党首率いる極右政党・自由党(PVV)が第1党になる可能性がかなり高くなっている。英国の国民投票におけるEU離脱決定、米国の大統領選挙におけるトランプ候補勝利に続いて、「反グローバル化」のうねりが大西洋の両側で続いていることをあらためて印象付けるイベントになるだろう。

 もっとも、オランダでは小党分立の中で連立政権が常態化しているため、自由党を排除してそれ以外の政党が連立を組む可能性が高い。

 また、英国がリスボン条約第50条に基づいてEUに脱退通告を行い、2年近くに及ぶとみられる条件交渉が開始されるのも3月である。

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