予想が2度外れた筆者の言い分

 「黒田日銀」発足後、政策変更のタイミングが予想からずれてしまう事態に、筆者は2度直面した。1度目は、2014年10月の追加緩和。筆者は2015年1月の追加緩和を予想していたのだが、3カ月手前で黒田総裁は動いた。次が、今回(2016年1月)の追加緩和。筆者は2015年10月の追加緩和を予想していたのだが、3カ月後ろで黒田総裁は動いた。

 「マイナス金利の世界は無限で、日銀はいくらでも下げられる」という声もあるようだが、そうではないと筆者は考えている。論理的には無限であるとしても、あるいは現金を引き出して大量に保管する金融機関が出てこないよう日銀がペナルティーを定めているとしても、現実の世界では、マイナス金利幅の拡大には自ずと限界がある。

 マイナス金利は、預金者や金融機関の収益に負担を強いる政策である。一般の預金者向けの金利も市場金利に合わせてマイナスにすれば(たとえば口座管理手数料を課すケースが考えられる)、金融機関の収益が圧迫される度合いは軽減されるわけだが、レピュテーションのリスクなども考えると、現実にそうした動きに出る金融機関は現れない可能性が高い。

 その一方で、市場金利の一層の低下や貸し出し競争のさらなる激化をうけて、資金の運用利回りは低下せざるを得ない。したがって、日銀がマイナス金利幅を拡大して市場金利の低下が進めば進むほど、金融機関の収益は圧迫される。

 貸し出しを含む金融システム全体の円滑な作動にとっては明らかにネガティブな話であり、無理にマイナス金利政策を推し進めていくと、実体経済に悪影響が及んでくる。実際、日銀がマイナス金利を導入した後に、収益悪化懸念から東証上場の銀行株は大幅に下落している。

 また、金融市場での運用難が一段と強まる中で、金融機関が無理なリスクテイクに追い込まれかねないことも危惧される。マネーゲームは、勝者だけで成り立つわけではない。

 なお、甘利氏の後任である石原伸晃経済再生相は2月2日の記者会見で、マイナス金利による金融機関の収益力低下などの副作用についても「知り合いの地銀頭取らから聞いている」と述べ、マイナス金利の影響については「もう少し見守ることが必要」とした。

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