日銀の緩和策を「円安誘導」と批判してくるリスクも

 政府関係者は「金融政策にまで口出ししてくると面倒なことになる」と述べ、米国が日銀の緩和策を「円安誘導」と批判してくるリスクを否定しきれないと漏らしていた(1月28日 日経)。数日後、1月31日のトランプ大統領発言で、それが早くも現実になった。

 また、同じ1月31日の英紙フィナンシャルタイムズには、対中強硬派として知られており新設の国家通商会議(NTC)のトップに就任したピーター・ナバロ氏が、「暗黙のドイツ通貨・マルク安が貿易交渉の障害になっている」として、為替市場でユーロが安くなっていることを強く批判した発言が掲載された。

 これらの発言は、トランプ政権の保護主義的な姿勢がいかに強固なものであるかを、市場に強く印象付けた。「米国第一」の下での米製造業「復活」のためには、自国通貨ドルが他国の通貨に対して強いことは、明らかにネガティブである。

「強いドル政策」を財務長官は示唆するが、上昇余地は限られる

 トランプ大統領から財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏は1月19日に上院で開催された指名承認公聴会の席上、「強いドルは長期的に重要だ」「ドルは最も魅力的な通貨で、海外から米国に投資を呼び込んでいる」と発言した。これは、クリントン政権のロバート・ルービン氏以降、米国の歴代財務長官が継承してきた「強いドル政策(strong dollar policy)」を、トランプ政権も採用する考えを示唆したものだろう。①基軸通貨としてのドルの信認を保つこと、②そのことによって経常赤字国である米国への投資マネーの安定的流入を確保する狙いが背景にある。

 だが、話はそこで終わるわけではない。ドル高が行き過ぎれば、輸出減少・輸入増加を通じて、トランプ大統領が忌み嫌っている米国の貿易赤字が拡大する。

 1980年代前半のレーガン政権は、大型減税・高金利政策・ドル高に由来する「双子の赤字」で行き詰まり、1985年9月には国際協調でドルを押し下げる「プラザ合意」が成立した。「レーガノミクス」の失敗を、「トランポノミクス」が繰り返さないためには、ドル高が行き過ぎないようマネージする必要がある。トランプ大統領の頭の中にあるとみられる世界観は1980年代のそれではないかという印象を、彼の言動から抱いているのは、筆者だけではあるまい。

在庫補てん一巡後の鉱工業生産については、楽観視できない

 したがって、「強いドル」政策という「看板」はこれまでの政権と同じように掲げながらも、トランプ政権はドル相場がここから大きく上昇するようなことは極力回避しようとする可能性が高い。つまり、ドル相場の上昇余地は限られるということであり、「トランプラリー」の下で昨年11~12月に急進行したドル大幅上昇の反動がこの先も続きやすいという見方である(市場には、ある1つの方向に限界を見出した場合、その反対側を試しにいく性質がある)。

 以上のように考えを巡らせると、在庫の補てんなどが一巡した後の鉱工業生産の足取りは過度に楽観視すべきでない。米国の動き次第ではむしろ日本の輸出・生産に下振れリスクが急浮上しかねないと、筆者はみている。