大手広告代理店における過労自殺事件の影響か

 「自分(あるいは自分の家族)」が置かれた雇用環境について足元で不安が薄れているとすれば、消費者意識指標「雇用環境」の上がり方が鈍い原因は、「他人」が置かれた雇用環境に求めることになる。筆者の考えでは、原因である可能性が最も高いのは、大手広告代理店における違法長時間労働・女性社員の過労自殺事件が2016年10月からテレビ・新聞・雑誌で大きく報じられ、日本の雇用環境の厳しい実情への関心が人々の間で高まったことである<図2>。

■図2:全国紙5紙(日経・朝日・読売・毎日・産経)に掲載された「過労死」という言葉を含む記事数
(出所)日経テレコンで検索した全国紙5紙掲載記事数から筆者作成

 全国紙5紙に掲載された「過労死」という言葉を含む記事数を検索すると、2016年10月に急増したことがわかる。次の11月はさらに多い件数になった。12月になると件数は減少したものの、それでも100件を超え、9月の水準よりも多かった。

 こうした動きと消費者意識指標「雇用環境」の戻りの鈍さには関連があるのではないだろうか。実際、昨年10月に消費者意識指標が悪化した際の内閣府記者レク(報道機関の記者向け説明)では、この過労死事件が引き合いに出されていたという。

職場環境の厳しい実情が、消費者心理の重石に

 要するに、マクロの経済統計ではとらえられていない、(一部の)日本企業における職場環境の厳しい実情が、消費者心理の重石になったということである。

 ちなみに、こうした日本の労働環境の厳しい方向への変容を取り上げた1年程前に発売された経済小説に、相場英雄『ガラパゴス』がある。実は、相場氏が大手通信社の経済担当記者だった時代に筆者とは長く接点があり、脱サラして小説家になると知った時は大変驚いた。その後、山本周五郎賞に2度ノミネートされるなどしており、今や売れっ子作家の1人として活躍中である。「ガラパゴス」では、フィクションの形を取りながらも、記者時代の人脈を生かした取材経験を元にしたとみられる、ノンフィクションではないかと錯覚するような文章も見出される。書評にはそうした観点からのものもあった。印象に残ったセリフを少しだけ引用したい。

 「正社員やパートなど顧客企業が直接雇用する人たちは人事部が把握しています。しかし、我々は部品や備品と同じ扱いで、足りなくなった分を補うという意味で外注の加工費としてカウントされているのです。部品以下かもしれませんね」

 「普通に働き、普通にメシが食えて、普通に家族と過ごす。こんな当たり前のことが難しくなった世の中って、どこか狂っていないか?」

シンプルで楽観的なシナリオが、現実に当てはまるとは限らない

 いま安倍首相が力を入れようとしている働き方改革はどこまで実効性の伴うものになるかは現状未知数だが、少なくとも1つ言えるのは、「マクロ経済統計で雇用需給のひっ迫が続けば、賃金の増加と消費マインドの改善を期待することができ、それらに沿って個人消費は顕著に増加して、景気は良くなるはずだ」というような、シンプルで楽観的なシナリオが妥当するわけではどうやらなさそうだということである。消費者態度指数の内訳である消費者意識指標の動きをつぶさに見ることを通じて、そうした見方が浮かび上がってくる。