17年度予算案と16年度第3次補正予算案、20日から国会で議論へ
政府は昨年12月22日、2017年度当初予算案と2016年度第3次補正予算案を決定した。1月20日召集の通常国会で議論された上で、与党の賛成多数で可決成立する見通しである。
2017年度当初予算案では、高齢化による社会保障関係費の膨張を2016年度当初予算比で5000億円程度に抑えようとした結果、医療・介護分野で所得の高い高齢者の自己負担額が増すことになった。消費税率引き上げが2019年10月まで再延期されたこともあり、こうした苦しいやりくり(というよりも負担可能な層により多い負担を求める動き)が、今後も毎年度の予算編成で繰り返されていくことが確実な情勢である。
政府は昨年12月22日、2017年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は97兆4547億円と5年連続で過去最高を更新した。1月20日召集の通常国会に政府は予算案を提出し、3月末までの成立を目指す。(写真:PIXTA)
取れるところから取る
昨年12月に放映が終わったNHK大河ドラマ「真田丸」は最終回で、徳川家康の重臣として活躍した老境の本多正信が自らの領地の様子を真田信之に見せるという、意外だが実に印象的なシーンで幕を閉じた。領民に慕われている本多正信は「戦と同じ。人の心を読むのが肝要で、領民には無理をさせず、というて楽もさせず、年貢だけはきっちりと取る。その上で、領主たるものは決してぜいたくをしてはならん。これでござりまするよ」と、国づくりの根本的な考え方を信之に説いた。
だが、これは脚本家の三谷幸喜氏がインタビューで述べていた通り、「百姓は生かさず殺さず」という有名なアイディアにほかならない。慢性的な財政赤字に苦しんでいる日本の毎年度の予算編成にも、通じるものがあると言えはしまいか。
税制改正以外でも、高齢者医療制度支援のための負担金が膨らむ中で、大企業の会社員らが加入している健康保険組合の保険料率は9年連続の上昇。健保全体の平均保険料率(原則として労使折半)は過去最高を更新中である。「取れるところから取る」という考え方に沿って国民の負担が増している事例が、近年どんどん増えている。もっとも、これは国政選挙を経て日本の有権者がそうした政策コースを選択したことの帰結にほかならないのだが・・・。
国債利払いの積算金利を引き下げることで、国債費を抑制
閑話休題。2017年度予算案に話を戻すと、防衛費は過去最大の5兆1251億円になった。また、公共事業関係費は2016年度当初を26億円だけ上回る5兆9763億円。当初予算ベースでなんとか5年連続増にしたことには、財政出動論が根強い自民党への配慮があったのだろう。
歳出面でつじつま合わせに使われたのは、補正予算編成時に「財務省の隠しポケット」と揶揄されることもある国債費である。国債利払い費の前提となる積算金利を2016年度の1.6%から0.5%ポイント引き下げて2017年度は過去最低の1.1%にすることで、2016年度当初予算を下回る額に財務省は国債費を抑制した。
国債新規発行額と、赤字国債発行額の連続減少記録は途切れた
新しい年度の当初予算案が編成される際の比較対象は一種の慣例で、前年度の当初予算になっている。だが、前年度の数字は補正により、さらに決算時点でも変わってくるので、これはミスリーディングである。今回は「国債新規発行額が7年連続減少」「赤字国債発行額が5年連続減少」と報じられてしまうわけだが、2016年度は第2次補正予算で建設国債が2兆7500億円増発されたほか、第3次補正予算案では赤字国債が1兆7512億円、建設国債が1014億円増発されるので、実態としては、国債新規発行額および赤字国債発行額の連続減少記録はすでに途切れている。
報道に接した際に、そうした細かい事情までわかる人は少ないのではないか。当初予算ベースでの国債発行減少だけをとらえて「財政再建は順調に運んでいる」と考えるのなら、それは明らかに誤りである<■図1>。
■図1:毎年度の国債(新規財源債)発行額
注:2015年度までは決算、2016年度は第3次補正予算案、2017年度は当初予算案ベース
(出所)財務省
2017年度当初予算案の税収は高めの見積もり
さらに言えば、2016年度の税収が円高ドル安などを背景に当初予算計上額(57兆6040億円)を下回って推移しているため(2016年度の一般会計税収は11月末時点で前年同期比▲3.6%)、同年度の税収は第3次補正予算案で1兆7440億円下方修正されて55兆8600億円となる。にもかかわらず、「トランプラリー」の下で為替が急速に円安ドル高に動いたことによる企業収益増加見通しを主たる根拠にしつつ、2017年度当初予算案の税収見積もりとしては、2016年度当初予算を若干上回る数字(57兆7120億円)が掲げられることになった。なお、税収を見積る際に材料の1つになる、政府経済見通しの2017年度名目GDP(国内総生産)は前年度比+2.5%で、民間予測よりも高い。
そうした国債費と税収見積もりのテクニカルな「調整」、および「市況頼み」の色彩が濃い外国為替資金特別会計(外為特会)から一般会計への繰り入れの大幅増額によって、国債発行額の連続減少記録を「延命」させて予算編成の表面を取り繕っても、生産的なことは何もないのではないか。
財政規律が緩みやすくなっていることは大きな問題
また、日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の下で、長短金利の「ピン留め」と保有残高増加年間80兆円をめどとする長期国債の大量買い入れを実施していることの副作用として財政規律が緩みやすくなっていることも、実は大きな問題である。国債発行による金利負担や借金残高増加が意識されないと、財政はどうしても拡張方向に傾きやすくなる。
麻生太郎財務相は上記の2つの予算案を閣議決定した後の12月22日の記者会見で、国債利払い費の積算金利を大幅に引き下げた理由について、「国債費は日銀が当面長期国債(の金利)は0.0(%)でイールドカーブ等々抑えるという話をしておられますんで、低金利の環境が今後も続いていく、また日本銀行も続けると言っているので、それでいくと積算金利をわれわれとしては1.6(%)から1.1(%)に引き下げた」と返答していた。
日銀が市場金利を抑え込み続けることが、予算編成の前提に
要するに、日銀が市場金利を抑え込み続けることが、もはや予算編成の前提になってしまっているわけである。日銀の異次元緩和はもはや臨時異例の政策ではなく、長期的に継続される政策という位置付けだということである。日銀が2年という「短期決戦」に失敗して9月に「長期戦・持久戦対応」へと金融緩和の枠組みを切り替えたことが、かえって財政規律のさらなる弛緩につながりかねないという、皮肉な状況が現出している。
なお、麻生財務相はこの記者会見で、「マーケットで見れば、国債を発行すればもっと金利が上がらなくちゃおかしい。しかし、金利は下がり続けている。出してるにもかかわらず。昔に比べれば3倍にも4倍にもなっているのに比べて、金利はあの頃6%、7%だったのが、いまは0コンマ何%という話まで落ちているんだから、それは間違いなく、世界から見たら内容が良いというのを意味していますから(後略)」とも述べていた。
だがそれは、日銀が大量の国債買い入れによって市場の需給を締めあげて、債券市場の健全な価格形成機能をマヒさせていることの帰結に他ならない。
国債全体に占める日銀保有分はすでに4割近くに
日銀が保有する長期国債の残高は、日本銀行券の発行残高を上回らないという「銀行券ルール」の下で、以前は抑制されていた。日銀のバランスシート上、長期の負債である日銀券に見合う部分には長期の資産である長期国債を充てるという考え方がベースにあったわけである。だが、日銀は2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際、このルール適用の一時停止を決定。国債全体に占める日銀保有分はすでに4割近くまで膨張している<■図2>。
■図2:日銀保有長期国債残高と日本銀行券発行残高の比較
(出所)日銀
テクニカルなゲームのような予算編成が繰り返される
筆者が毎年感じることだが、日本の予算編成は縦割り色が濃く、過年度に決まった事業の延長線上で歳出が計上される部分も大きいなど、かなり硬直的である。歳出に優先順位をしっかりつけて、日本経済が地盤沈下を続けている根源である人口減・少子高齢化の流れを食い止めることにしっかり注力していかなければ、日銀による人為的な低金利状態の維持を当然の前提にしたテクニカルなゲームのような予算編成が、これからも毎年繰り返されていくことだろう。
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