しかし、それが可能になるかどうかは、村田製作所に勝利の方程式を作ることができるかどうかにかかる。日産がAESCを手放そうとするのは、もともと業界間での競争力がないから決断したわけで、そこを改革できるシナリオがなければ事業として成功への道標は描けない。

 一方、国外に目を向けると、韓国のLG化学やサムスンSDIは、AESCを取り込むシナリオはなさそうだ。LG化学はグローバルで顧客を取り込んでおり、自前のLIBの増産を拡大することに集中するだろう。

 LG化学にとってAESCは、プロダクトが互換性のとれるパウチ型LIBで共通性はあるが、自社の技術でビジネスに十分対応が可能なので、AESCに対する魅力は感じていないだろう。韓国、米国、中国の製造拠点に加え、ポーランドに製造拠点を構築しており欧州自動車業界の更なる開拓を推進中である。

 サムスンSDIも韓国、中国での製造拠点に加え、欧州自動車業界を対象にハンガリーにLIBの製造拠点を構えることを決断している。サムスンSDIにしてみれば、現状の金属缶角型電池でのビジネスをしている中、今更パウチ型という考えはないだろう。仮に、パウチ型を導入してもLG化学が先行しているところに勝ち目はないと感じているかもしれない。ただし、パウチ型LIBの開発も進めている模様だ。

 それよりも現状の最大の課題は、サムスンスマホでLIBがリコールを起こしたことへの対策だ。事故を起こしたのはモバイル用ではあるものの、自動車業界の顧客からすれば、車載用はよりハードルが高いので今後のビジネスにおいて不信感を買う可能性が高い。まずはここをクリアーしなければ、電池事業存続の危機に陥る可能性も否定はできない。

信頼性高めたい中国の電池メーカー

 一方、中国の電池メーカーにとってはAESCの買収は価値があるかもしれない。電気自動車(EV)メーカーであると同時にLIBメーカーでもあるBYDはその候補の1つだ。

 BYDのEV群は、2010年以降からこれまで火災事故を続けて起こしてきた歴史がある。安全性に関しては日韓電池メーカーに比べて信頼性の評価が低い。AESCの安全性に対する技術やノウハウを導入することは、それなりの価値があるといえよう。

 もう1つ可能性があるのは、ATLグループのCATL(ATLはTDKの子会社であるが、CATLは車載用LIBに特化する電池メーカーでTDKの資本は入っていない)である。車載用LIBの事業がまだ始まったばかりの同社にとって、顧客開拓と信頼性向上は大きな課題でもあるからだ。

 中国市場ではパウチ型LIBが主流である中、CATLは金属缶角型LIBでの開発とビジネスに取り組んでおり、パナソニックやGSY、日立などと同じような構造設計をとっている。金属缶角型がパウチ型より信頼性が高いからという理由での判断である。

 しかし、AESCもLG化学もパウチ型での量産実績を蓄積しているから、CATLの考えは必ずしも妥当とは言えないだろう。中国のエコカーメーカーがパウチ型LIBを好むのならば、CATLがAESCを買収して角型ビジネスとパウチ型ビジネスの両方を展開できる構図は意味ある展開になるかと思う。現在、角型とパウチ型の両方を有して百貨店的に展開しているメーカーがないことを勘案し、かつ中国市場でのパウチ型ニーズの高さを考えれば、あながち無いようなシナリオでもない。

 今後のAESCの行方が気になるところである一方、買手先が現れなければ事業撤退、廃業という最悪のシナリオにもなりかねない。そこに連動して大きなビジネスを展開しているNECエナジーデバイスにとっても死活問題に発展する危機ともなり得る。