潤沢な開発資金を手にした同社は、米国を中心に自動車メーカー各社と契約を結び供給を開始した。しかし、A123システムズ製のLIBを搭載した米フィスカー・オートモーティブの高級PHV「フィスカー・カルマ」が、2011~12年にかけて炎上や爆発事故を起こした。原因はLIBの品質にあるとされ、PHVはリコールの対象となった。

 A123システムズには5500万ドルものリコール費用が発生しただけでなく、製品の評価が奈落の底に落ちてしまった。その後も、LIBの供給商談が破談になるなど致命的な打撃を受けた。同時に、中国企業の万向集団がA123システムズを2億5600万ドルで買収した。米国政府が税金を投じて育成したはずの米国ベンチャーは国籍を中国に変える形となり、米国籍を失った。この一連の煽りを受けて、13年11月には、フィスカー・オートモーティブも経営破綻に陥ってしまった。

安全に対する開発基準と意識が異なる日本勢

 歴史をヒモ解けば、LIBが車載用、特にEV用に適用されたのは、2009年に三菱自動車が発売した「i-MiEV」、そして翌10年に日産自動車が発売した「リーフ」に遡る。10年からは中国ローカルメーカーも、タクシーやバスなどに適用し始めた。しかし、そこからEVの火災事故が多発した。BYDのEVバスもご他聞に漏れない。

 米テスラのEVである「モデルS」は、13年に米国市場で立て続けに5台の火災事故を起こしている。16年にはフランスの試乗会で火災事故を起こし、その他、ノルウェーやスウェーデン、そして中国市場でも火災事故を起こした。

 一方、日系勢のEVはこれまで、火災事故を1件も発生させていない。日産のリーフは累積販売台数が35万台を超えている。火災無事故は誇るべき実績である。BMWのi3も、そして販売台数規模は小さいものの12年に発売したトヨタ自動車のEVである「eQ」、同様にホンダの「FIT EV」も火災事故とは無縁である。

 ではなぜ、このような差が生じるのか? それには筆者の持論がある。筆者がホンダ時代に車載電池の研究開発に直接携わり、自動車メーカーの視点で取り組んできた経験、更に、サムスンSDIではLIB開発から事業に至る供給側の立場で取り組んできた経験から以下のように考える。

 電動車開発における重要コンポーネントとしては、モーター、電池、インバーターなどが代表として挙げられるが、何といっても火災事故の誘因となるものは電池である。とすると、自動車側の立場では車載電池をいかに安全で信頼性の高いものに設計・開発するかという視点が極めて重要となる。

 LIBでは充電放電に伴う発熱は適用する正極材料によっても異なる。また、充放電時の正極の結晶構造の変化度合いも材料によって異なる。逆にいえば、様々なLIBを設計できることにもなるが、安全性と信頼性の確立は殊更重要だ。電池が暴走しないような充放電制御機構や冷却システムも不可欠である。

 制御系が万が一、故障してもLIBの火災や爆発を起こさない設計・開発が基本的に必要だ。そのためには、開発品のLIBが過酷な条件においてどうなるかという、いわゆる限界試験による確認が大切である。1991年から着手したホンダでの電池研究開発においても、当初から独自の限界試験を相当盛り込んだのである。

 2004年9月にサムスンSDIに移籍してからは技術経営に臨んだ。その折に、世界の自動車各社を訪問した。そして、同社を退社する12年末までに多くの協議を重ねてきた。ホンダ時代にはできなかった自動車各社への訪問は確かに新鮮であった。なぜならば、自動車各社が車載用電池に対してどれだけの意識をもって開発にあたっているか、そしてその試験法や基準がどういうものかを直接知ることができたからである。もちろん、国内の古巣であるホンダやトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、スズキ、スバル、日野自動車などとも、かなりの協議や意見交換をしてきた。

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