自動車業界が電池業界に期待する重点要素の変化

 ただ、韓国勢のスピード感の速さには目を見張るものがあり、日本製LIBのベンチマーク、積極的な技術開発・マーケティング、世界各国からの人材採用等を実行してきた。2004年9月にホンダからサムスンSDIに移籍した筆者は、この実態を直接見てきたほか、そのような技術経営に自らも携わってきた。

 2010年後半には、サムスンSDIのモバイル用LIBが、それまでトップシェアを占めてきた三洋電機を初めて超えた。車載用電池のビジネスでも、韓国勢は2010年を過ぎると頭角を現してきた。以来、韓国勢はLIBの技術力、マーケティング力、安全性・信頼性を確立することで、日韓のLIBにおける性能や安全性に対する差異はなくなった。

 その後は、中国のLIBメーカーも乱立。EVを国策として進める中国では、完成度の低いLIBを搭載したEVが火災事故を頻繁に起こすなどの社会問題にも発展した。その中国では、「失敗したことは仕方がない。これから巻き返すことが大切」という命題のもとで、事故を起こしつつも新規参入組のEVメーカーや電池メーカーの乱立が進み、拡大方向の路線が展開されてきた。

 世界の自動車各社における日本の立ち位置は、日系自動車各社との電池協業や調達を推し進めるものの、欧米では様相が異なる。特に、2015年頃を境に、欧米自動車各社の電池業界に期待する要素が大きく変わったように映る。そのストーリーを以下の表に示す。

自動車業界の電池業界に対する期待要素の変化
自動車業界の電池業界に対する期待要素の変化
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 2015年以前での重点要素は性能面、安全性、パック化技術、コストが主流であった。以降は、性能面では日韓の優位差がなくなり、そして安全性・信頼性でも同等になり、更には自動車各社がパック技術を要求するビジネスモデルから、モジュール(セルの集合体)以降を自社で手掛けるビジネスモデルに大きく転換を図った。

 逆に、2015年以降の重点要素は更なるLIBコストの低減、とりわけ25千円/kWh以下、しかも10千円/kWhに近づけたい自動車各社の思いが如実に現れている。そしてもう一方の指標は、投資力によるLIB生産キャパである。

 現在、LIBのコストリーダーはLG化学である。近年、LG化学を意識しているCATLが激しく追随している。日本勢は、業界でのコスト低減を前面に打ち出す、あるいはコストリーダーとなる戦略を唱える企業は無いに等しい。逆に、パナソニックは価格競争に持ち込まない戦略といっているが、果たしてどこまで通用するのだろうか。

 一方の投資による生産キャパ拡大においては、韓国のトップ3と、国からの補助金前提ではあるがCATLとBYDの存在感が浮き彫りになっている。日系ではパナソニックの投資力が韓中に対抗しつつある水準ではあるものの、それ以外の電池各社の投資力には見劣りがある。

 このように、コストと投資力が競争領域になっているわけだが、似たような経緯はあちこちで確認されてきた。これまでの産業界の歴史を紐解けば、いや紐解かなくても液晶事業、薄型テレビ事業、携帯電話事業、スマホ事業、半導体事業など、日本から韓国をはじめとするアジア勢に勢いがシフトした事例は枚挙に暇がない。

 こういう状況を勘案すると、日系電池業界としては電池各社の個別展開よりも、体力と筋肉質のある業界への転換が必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。業界再編もその一つのアプローチであるだろうが、そうでなければ競争力の乏しい企業は淘汰されるシナリオになりかねない。

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