筆者は常務役員の立場で移籍したが、社長や副社長の上位職に対しての遠慮がそれにあたる。社長は最終的な上司であるが、そうは言っても社長の判断が常に正しいとは限らないし、そういう現実に幾度も遭遇した。

 ましてや、それ以外の役員となれば業務上、様々なしがらみが生じる。2004年から09年まで在籍した韓国の中央研究所でも、役員間の考えはまちまちで、その分、研究開発戦略が揺らぐことが多かった。

 そのような時に、自身の考えや主張を通じて誤った方向性の軌道修正をする、あるいは新たに進むべき道標を自ら創り上げていく姿勢が問われるのである。筆者は儒教の呪縛にとらわれず、社長に対しても必要に応じて異論、反論、主張を唱えることを避けなかった。

 中央研究所内での喧々囂々としたやりとりは、テーマを戦略的に進めていく上で間違った(担当役員本人は正しいと思っているのだが)方向性を軌道修正するために必要だった。誤った研究開発をリードしていることが経営資源の無駄と感じたからだ。周囲の韓国人達は、はらはらしながら観察していたようだった。

 しかし、やがてその軌道修正が正しいこと、あるいは正しかったことが立証されると、間違っていた方向に導いていた役員は次の役員定期人事で会社から消えて行った。

 日系企業に比べてトップダウンの文化が強い韓国企業では、こういう軌道修正にとてつもない時間と労力を必要とする。それだけに、タフな交渉力も求められる。

 部長級以下でも、この構図は同じだ。正しく主張できる日本人がグループに良い意味での刺激と活力を与えることになる。仮に、一時的に四面楚歌状態になったとしても、その考えや行動に周囲が妥当性を感じると、自ずと同調したり、サポートしたり、追随したりする仲間が増えるのである。問題はその主張の妥当性を論理的に証明し説得することであり、決して押し付けであってはならない。

サムスンに移籍してはならない人物像

 さて問題はここである。サムスンのみならず外資企業に共通することであるが、サムスンに移籍したケースでの実態を分析し取り上げて論じることにする。ここでは、早々に退社してしまう部類の人達だ。はっきり言って、そういう人達はサムスンや他企業へ移籍すべきではないと言う結論になる。

 すなわち、新天地を求めない方が双方にとって良いはずだ。採用するサムスン側もそこまで判断できれば良いのだが、何分、採用してみないとわからない部分もあるので限界がある。

 筆者のサムスン時代に垣間見た、このような日本人に共通して言えることは以下の5つに集約できる。

(1)隣の芝生が青く見えたばかりに熟考しないで移籍する
(2)自身の主張のみが正しいと強調する
(3)自身が培ってきたキャリアやアイデアがあるのに大勢の意見に流される
(4)周囲とのコミュニケーションを避けたがる
(5)成果をあげてキャリアを重ねようとする意識が低い

 この5点であるが、それぞれを具体的に解説する。