不正事件を防げなかった闇

 さて話を戻そう。三菱自動車の不正事件が起こった背景については、自動車業界、特に軽自動車領域での熾烈な燃費競争、あるいは三菱自動車が他社に比較して研究開発資金が少ないこと、それに伴う開発プロセスの省略など、さまざまあることも報じられているが、それはあくまで引き金となる要因だ。

 問題は、そのような引き金を引いてしまったことのプロセスがより重要で、そこをどのように解釈するかである。走行抵抗値の都合の良い数値を適用して燃費表示をした三菱自動車の根源的な問題は結局、開発部門、認証部門、経営陣のすべてに絡む原因があるだろう。

 元・性能実験部長の判断で数値の操作指示をしたとの話もあるが、真偽のほどは今後の調査に委ねることにするとして、事件にまで発展し未然に防げなかった原因の検証は必要だ。仮に、開発部門で数値操作などが起こる、すなわち元部長が指示したとしても、内部にコンプライアンスが存在して機能していれば、開発陣の中から反論や内部通報、内部告発などが起こっていいはずだ。

 ホンダ創業者の本田宗一郎が語っていた「技術論議に上下関係はない」という哲学、それによって風通しの良い議論がなされてきた歴史がホンダにはある。もちろん、部分的には技術論議に上下関係があることも筆者は直接体験してきたが。ともかく、ホンダでそういう場面が生じたとしても、誰かが通報したり告発したりするコンプライアンスは存在していた。反論が起こらないことは考えられない。それは現在も変わってはいないはずだ。

 一方、認証部門は客観的な立場で第三者的に判断しなくてはいけないのだが、三菱自動車においては、ここも機能していなかったことになる。開発部門の数値を鵜呑みにしてしまう体質、監査的な視点で数値の信頼性を自主的に確認する必要があったはずだ。

 そして責任としてはより大きい技術経営や経営陣の機能不全。ここは最後の砦のはずだが、ここもスルーしてしまうプロセスは、企業としてのコンプライアンス不在と言われても仕方がない。

 開発部門、認証部門、経営層の個々の機能が結果として果たされていないとなれば、企業ぐるみの不正事件と問われても反論の余地はないように思える。

 仕事柄、三菱自動車の電動化開発部門の技術陣や幹部との交流はある。そういう交流を通じては、このような事件につながるような雰囲気を微塵も感じる節はなく、地道で真面目な開発をしているように映っている。

 すべての部門に共通した問題ではないように思えるのだが、今回の事件を総括して徹底的な原因分析と検証、そして確実な再発防止策の提示、さらには企業としての社会的責任の取り方が説明責任として問われている。

 ここでは波紋が大きかった自動車業界の事件を扱ったが、何も自動車業界に限った話ではない。建設業界、食品業界、医療の現場でも類似した事件は少なからずあった。すなわち、あらゆる業界に共通した課題であることを認識し、他山の石として教訓にすべきだろう。