筆者がさまざまな企業人、とりわけ40歳代までの若手と意見交換する際に必ずと言ってよいほど尋ねるのは、「仕事は楽しいですか?」ということだ。勤務時間が長くても、給与が相対的に低くても、楽しく仕事ができていれば、それは企業と個人のマッチングがとれていることになるので、わかりやすい質問だ。

 逆に、各種条件が他業界や他企業と比べて相対的に見劣りせずとも、仕事を楽しんでいない群も少なからず見ている。リストラ等で自身の関わっていた仕事と全く無関係領域での仕事を与えられたことによるストレス、あるいは上下関係のコミュニケーション不足による考え方の乖離によるストレス、上司や経営層の独走で誤った方向に進んでいるところに巻き込まれるストレスなど、その背景には様々な要因がある。現代は、そのようなネガティブな因子を払しょくするための企業としての在り方、個人としての行動のとり方が、特に求められているように思う。その打開策には以下の5つのようなものがあるだろう。

人材が活躍できる企業制度改革

①人材流動が起きやすい企業環境創り

 人材が流動しやすい社会を創ることは不可欠だ。企業と個人のマッチングを促すためには、各企業自体がそのような環境を整える必要がある。筆者がサムスンに移籍した2004年に比べると、日本でもそのような環境ができつつあるように見えるが、欧米や韓国企業に比べるとまだ10分の1くらいかと映る。

 ホンダ時代の筆者の部下は現在、トヨタ自動車で勤務しているが、彼の処遇を見てみると、きちんと評価して重要な役職を任せ、人材に対して求心力を高めている。所属した企業と個人のマッチングが図れて、あるいは図るような施策で企業が人材を留める求心力の向上は、より重要な施策であることに違いはない。

②成果に対する報酬制度や昇進人事の改革

 成果を出しても出さなくても報酬や昇進であまり差を付けないのが日本流のようである。日系企業以外では考えられない慣習だ。それだけに、現在の学生から見た外資系企業との見劣りは明らかだ。もちろん、その日本流的慣習をすべて否定するわけではないが。

 適正な差を付けることが本来の公平感である。日本企業が辿ってきた高度成長期時代の大量生産によって発展してきた製造業では、異質な人材や尖った人材を囲い込めてこなかった。負の遺産のように思えるこのような前近代的文化から脱却しないと、今後の人材確保において苦戦することになるだろう。

③人材を積極的にスカウトする文化を

 この文化が薄っぺらであるから、特に外部人材や外国籍人材を求めようとすると、ネックになる場合が多い。どうしても必要とする人材には、それ相応の処遇は必要になってくるだろう。働き方改革と連動するこのような人事制度改革、企業文化改革も必要ではないか。

個人としての意識改革

④ビジネスマッチングが図れない際の行動指針

 定期採用であれ中途採用であれ、企業の実態はその中に飛び込み、仕事をしてみなければわからない。「こんなはずではなかった。」と言う声も良く聞く話だ。悩み抜いて考え抜いても打開策が見出せなければ、何もそこに踏みとどまることはない。そうしないと心の病にかかることも必定。ただし、せめて何らかの成果を出してキャリアを上積みすることは必要かと。

 ホンダの創業者である本田宗一郎は名言を残した。「会社のためではなく自分のために働け!」「信念をもって仕事しろ。しかし信念は往々にして逆風を招く。それでも信念をもって仕事をしていたら、ホンダで駄目でも外から声がかかる!」と。楽しく仕事をするためには信念が必要とも言えるだろう。

 筆者もその一人であるが、信念の大事さをホンダで実感した。2013年8月22日の本コラム「サムスン移籍の理想と現実、生き残るには覚悟が必要だ」に、筆者の実例を記述したところ、多くのアクセスをいただいた。他方、外から声がかからずとも、起業するという選択肢もあるだろう。

⑤心を病む働き方からの脱却

 仕事ができなくなる、出社できない、鬱病を発す、自殺にまで追い込まれるという光景は、日本が先進諸国の中で突出している。欧米企業、サムスンなどの韓国企業では、そうなる前に自身の処し方を真っ先に考える。むしろ、機会到来と思えば積極的に転身する。だからこそサムスンでは、心を病みながら会社にしがみついている人物を見つけることはできないのである。

 企業の方針や戦略、あるいは処遇にマッチングを図れない場合、自らが自分の環境を変えるくらいの胆力を鍛えておくことは必要であろう。しかし、行動指針としての一丁目一番地としては、企業が個人に対して面倒を見てくれることへの期待感を考えるより、企業に対して自らが如何に貢献できるか、そのためには何をなすべきか、そしてその行動と成果を自身のキャリアとして蓄積できるかを、まず先に考え行動することであろう。

 以上、改めて「仕事の在り方、進め方」について考えてみた。