その時点で、エネルギー事業とヘルスケア事業を成長させる戦略を描き、「バイオ医薬」、「医療機器」、「車載用リチウムイオン電池(LIB)」、「LED」、「太陽電池」の5テーマを策定した。結果として現在は、ヘルスケア部門は成果を出しつつある一方、LEDは成長軌道を描けず失敗、太陽電池は競争力がないことで事業撤退となっている。

 一方、信賞必罰のサムスンは有名だ。成果を出せばインセンティブが与えられる。その成果が大きいほどインセンティブも大きくなる。リーダーとして貢献したならば、昇進も極めて早くなる。役員任用の平均年齢は47歳ほどであるが、30歳代の役員任用も珍しくなくなってきた。それだけダイナミックな人事や報酬制度が存在する。

 それがあるから、韓国の民間企業の中でサムスングループの就職人気度は抜群だ。また、世界各国から人材を集める力をも持つ。終身雇用でもなければ、組合も無い。事業が上手く推進されなければ事業撤退から解雇に至るケースも少なくない。しかし、そんなリスクも抱えながらも求心力があるのは、そういうリスクよりも魅力の方が上回るからだろう。

 しかし逆もダイナミックだ。成果を出せなければ、社員はともかく役員は責任を問われる。失敗は言うに及ばず、成果がないだけでその責任は大きい。50歳未満で役員に任用されても、その後の2年程の間に成果を見せなければ生き残れない。在籍中に筆者は、50歳前後でクビになる役員の現場と現実を多く見てきた。役員解任の詳細な理由は説明されないケースがほとんどだが、当事者としてもその判断がどこにあるのかは自ずとわかるようだ。

人材集めに苦労する日本

 その後、サムスングループの成長戦略事業は2016年に再見直しをかけた。サムスングループ製品展示会開催を発端に、「自動車電装事業」、それに「インターネット・オブ・シングズ(IoT)」、「人工知能(AI)」の3テーマを追加した。いずれも、現在の時流に乗り遅れないようスピーディな判断を下した。今や、この3テーマに絡む人材確保を精力的に進めている。

 日本企業も現在はIoTやAI分野で人材確保に躍起になっている。自動車業界では特に自動運転の研究開発分野で重要な人材となっている。AI人材は売り手市場で争奪戦が続く。IoTやAIを主力とする企業やベンチャーも人材確保のために奔走しているが、絶対的な人数が不足とのこと。本格的なスキルを持っていなくても、少しかじった程度の人材でも迎え入れるほどと聞いている。

 2017年11月、京都に本社がある電機メーカーを訪問した際、ホンダ出身の役員で筆者の知人が語っていた。「有力大学に人材の就職依頼に詣でても、グーグル、アップル、マイクロソフトなどの外資企業が提示する初任給と比較されてしまうと競合できない。そうかといって、社内規定を超えての特別採用もできず何ともかみ合わない」と嘆いていた。これが日本企業の縮図であろう。

 結局、日本企業の場合は定められた規定があることで、外資や外資系日本企業との人材争奪戦になれば不利になる。もともとスカウト文化がなかった製造業では、人材確保のための強力な武器がないことでじり貧だ。

 それを象徴するように、1月22日の日本経済新聞の1面トップに、「日本の賃金、世界に見劣り」と紹介された。日系企業の給与水準は欧米のみならず、アジア各国に抜かれているという。例えば2017年に、中国の通信大手の華為技術(ファーウエイ)は日本国内の新卒採用で、ソニーなどの電機大手の2倍近い水準を提示したとのこと。

 これからの日本企業もグローバル戦略はますます重要になる。人材確保のためのグローバル戦略も例外ではない。人材流動、人材スカウト、働き方改革など、日本企業としては多方面に課題を残す。