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 サムスンでは経営側に携わったことで、最初の5年間は中央研究所で研究戦略と研究テーマの運営と判断を業務の中心としていた。ここでは、ホンダで経験した反面教師の存在を参考にしつつ、自身は決してそうならないように務めたのである。

 モバイル用LIBの新技術開発、車載用LIBのプロモーションのための全世界の自動車各社との協議、アウトプットが期待されない、あるいは出口が見えないプロジェクトの中止判断、新ビジネスモデルを構築するためのプロジェクトの起案等に着手。韓国人役員との激しい論議も厭わず実行してきたことが、それなりの成果に繋げたと言えよう。

 6年目となった2009年9月には、本社経営戦略部門に異動となると共に、東京へ逆駐在となり日系顧客とのビジネスアライアンスに心血を注いだ。技術経営と経営戦略は不可分の関係だ。両輪として機能させることが価値を最大にする。

ホンダとサムスンの経験を活かして

 2012年12月31日付けでサムスンを退社したので、6年前になる。相前後し、御縁をいただいてエスペックの上席顧問、名古屋大学未来社会創造機構の客員教授の任にあたっている。名古屋大学の当センターが発足することが決定された時期に、プロパーの教授としてお誘いを受けたのだが、サムスンで仕掛けていた大きな業務を中断させることは無責任になると考え、客員教授としてお手伝いすることを逆提案した。

 もっとも、6年前の2013年1月には、電池業界再編のためのプロジェクト(産業革新機構がオーガナイズするLibertyプロジェクト)への検討委員として委嘱を受け、新会社設立に向けたシナリオ創りに参加した。電池業界の勝ち組であるサムスンでの経験を評価されての委嘱であった。13年中盤になって新会社の全骨格を創り上げたものの、13年末にソニーがそのプロジェクトから離脱したことで、当プロジェクトは空中分解に終わった。

 エスペックは環境試験機器業界の大手で、国内シェアは60%、グローバルでは30%のシェアを誇る。企業規模ではホンダやサムスンに比べると小ぶりだが、ビジネスモデルとしては自動車業界、半導体業界、電池業界、電機業界を中心に大いに貢献していると言えよう。

大阪のエスペック本社(左)と宇都宮のバッテリー安全認証センター

 昨今の自動車のパラダイムシフトは、正に電動化と自動運転が両輪で最大の開発テーマとして展開されている。自動車業界としては、真に生き残りをかけると言っても良いほどの大きな命題となっている。

 自動車の電動化開発をサポートする機能としては、恒温恒湿槽や充放電テスター機器の開発は元より、車載用電池に対して、自動車業界や電池業界等から試験評価を受託するビジネスモデルを2013年に構築。更には、16年から義務付けられた国連規則ECE R-100 Part.IIによる電池安全性評価試験(電池圧壊試験など9項目)の認証取得ビジネスを構築し、「バッテリー安全認証センター」として運営にあたっている。

 また、国や地域によって求められる製品仕様や機能は異なるので、そのニーズにマッチする製品戦略が重要だ。エスペックが得意としてきたハイスペック仕様は、日米欧市場での評価は高いが、製品の低価格を要望する中国や韓国市場では異なるビジネスモデルが必要とされてきた。その結果、充放電テスターの低コスト仕様の開発も2018年には実現され、中国市場を中心に攻略しつつある。

 こうした一連の事業化は、新ビジネスモデルとしてタイミングよく早期に実現できたものであるが、それ以上に、各業界の開発効率を最大限引き出すことに貢献していることでの意義が極めて大きい。