安倍首相の「約束とは異なる新しい判断」

 もう1つは、安倍首相の「約束とは異なる新しい判断」という言葉です。これは「職業倫理的」に使ってはいけない、リーダーとして言ってはいけない言葉でした。

 6月1日の記者会見で消費税の増税再延期の決断を伝える時に、この表現は使われました。

 経緯としては、1年半前に、再び延期することはない、と約束したにも関わらず、約束を破ることになったからです。

 誤解がないように書きますが、これは政策や意思決定の内容にコメントするものではありません。私自身、極端な主張を伝える際のアドバイスをすることも少なからずありますし、ここで増税の再延期や、憲法改正や、その他、政策の方向性や優先順位、もしくはその方針変更について、賛成反対を訴えるものでもありません。

 ただ、この「約束とは異なる新しい判断」は、政治や政策の話ではなく、また単純に「判断を変えた」ではない、「自分が合理的に思えたら、いつでも裏切ります」という重大な意味を持つ表現なのに「無理やりそれらしく聞こえるように」作られた言葉になっていることを指摘したい。それだけです。
 

 分かりやすく言えば、「繰り返し約束したこと」を「完全に反古にして」、「その重大性にまったく向き合わずに」、「次の話をする」表現が、「約束とは異なる新しい判断」という言葉です。

 もっとストレートに言えば、国民を騙してもなんでも、やりたいことをやりますという宣言ともとれます。

 そう聞こえないような表現にしている所が、職業倫理上大きな問題なんです。一体なぜこんな一言で信頼を失う言葉を作り、そして使ったのか。

 リーダーは、皆が信頼して支える対象です。信頼にこたえて導く人物です。

 ところがこの表現では、消費税増税どころの話でなく、公約違反どころの話でもない。約束を約束としない、どこまで行っても最後にすべてがひっくり返る言葉です。首相は前に進めるのか後ろに戻すのか、という言葉を使いますが、原発事故直後に当時の枝野官房長官が「直ちに健康に影響はない」という中身のない説明を繰り返した過去よりも、更に悪意に満ちた表現であると言える。

 代表者としての信頼性に向き合わない、約束が約束にならない、すべての信用を破壊する言葉なのです。

 それらしい新しい表現を作って、もっともらしく感じさせるためにコミュニケーションを使ってはいけない。

 リーダーとして決して使ってはいけない言葉を安倍首相は使ったということです。