円高の主因は投資家のリスク許容度の低下

 こうなってしまったのは通貨高の影響を過大視したことに加えて、通貨高のメカニズムを正しく理解していなかったことが原因です。円高(欧州ではユーロ高)は金融緩和が不十分だったせいとの誤った理解に基づいて大規模な緩和を続けたことが、こうした事態を招きました。

(図表4)景気・リスク許容度と株式・通貨の関係
出所:大和住銀投信投資顧問
 しかし、円高の理由は日銀の緩和不足ではありません。世界経済への不安などが原因となり投資家のリスク許容度が低下。それを受けて、日本などの低金利国から高金利国に流出していた資金が、低金利国に還流したことが原因です(図表4参照)。

 このように円高の原因が投資家のリスク許容度の低下にあるのであれば、投資家がリスクをとれる環境にならない限り、日銀がいくら資金を供給してもその資金は国内に滞留するだけです。こうしたメカニズムを理解していなかったため、資金供給を続けて金利を低下させ、さらにマイナス金利を導入したことが混乱を招くことになりました。

 逆に投資家がリスクをとれる環境になれば、追加緩和がなくても円高が止まることはあり得ます。実際、足元はそうした方向に向かいつつあります。この点について説明します(図表5参照)。

何もしないのがベスト

(図表5)円の対ドルレートの推移(日次、円)
出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成

 円高が進んだのは昨年の11月から今年の7月にかけてです。新興国や産油国への不安がきっかけとなって円が買われました。1月末には日銀のマイナス金利導入が投資家心理を委縮させ、円高が一段と進みました(図表5参照)。

 その後も円高は止まらず英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた6月末には瞬間的に100円を割り込みました。市場関係者の間では「100円では止まらない」との声が高まります。

 しかし、それから3ヵ月が経ちますが、円は100円で踏みとどまっています。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを見送り、日銀の追加緩和が上場投資信託(ETF)の買い入れ増額に止まったにもかかわらず円高が進まなかったのは投資家の許容度が回復し始めたからです。

 懸念された新興国経済は悪化せず、原油価格も反発しました。米国の景気は追加利上げの議論を再開できる程度まで持ち直した。ダメだダメだといわれていた日本の消費についても統計で所得の増加が確認されたことから、以前に比べて悲観論が少なくなりました。

 6月に一時1ドル=100円を割り込んだのは、EU離脱により英経済は大打撃を受けるとの声が高まったためです。しかし、実際にはポンド安で大陸からの買い物客が増え、英景気はむしろ盛り上がっています。

 このように投資家のリスク許容度を低下させていた不安要因が解消され始めたため、一部の投資家がリスクをとり始めた。それが円高に歯止めがかかった理由です。ただし、世界経済も本格的な回復とはいえず、米国の大統領選なども控えているため、円安に転じるまでには行っていないというのが現在の状況です。

 昨年11月以降の円高局面で政府・日銀はどうすればよかったのでしょうか? 答えは何もしないことです。国債購入による資金供給では投資家のリスク許容度を引き上げることはできません。苦し紛れのマイナス金利は逆に投資家のリスク許容度を低下させ、一段の円安を招きました。何もしないのがベストだったということになるでしょう。