もし、「日本株は円高に弱いのでなく、世界経済の変動に影響されているだけです」と説明すればどうでしょう。これなら外国人も違和感なく聞いてくれます。世界中どの市場でもそうだからです。
しかし、今でも多くのエコノミストやストラテジストは金融緩和・円安・株高の3点セットで投資家に日本株を勧めています。そして皮肉なことに、彼らが日本株強気論を語れば語るほど、長期の外国人投資家は弱気になります。これが通貨と株式市場の関係についての誤解が日本株に与えている弊害の最たるものです。
見過ごされる好材料
市場関係者の関心が通貨の動きや金融政策に集中するあまり、その他の材料が見過ごされていることも弊害の一つです。例えば経済指標です。
日本経済は依然として弱い弱いといわれていますが、それでも今年に入って改善しつつあります。昨年は4~6月、10~12月と2回マイナス成長の四半期がありましたが、今年に入ってからは1~3月、4~6月共にプラス成長です。
足元で改善が見られるのが製造業関係の経済指標です。直近の8月の鉱工業生産指数は7月の96.5から97.9に上昇、エコノミスト平均の予想を上回り、今年1月以来の水準を回復しました(図表3参照)。この他、機械受注や日本経済新聞が発表する製造業の購買担当者景況指数(PMI)なども改善を続けています。
しかし、こうした経済指標の改善に日本株が反応することはほとんどありません「経済指標の予想を上回る改善を受けて株価が上昇」などのコメントは久しく見ていません。
好材料が評価されないのは、市場関係者の目が為替レートや金融政策に集中するあまり、他の材料を見過しているためです。また、金融緩和・円安・株高の3点セットによる日本株強気論を唱えるエコノミストやストラテジストの中には、よい経済指標を意図的に無視している人がいるとの話も聞きます。
いずれにしても、経済指標の改善などを考慮すれば、日本株の水準はもっと高いところにあっておかしくないと思いますが、実際にはそうなっていません。このように、為替関連以外の材料が見逃されていることも、円高の悪影響が誇張されている弊害の1つです。
ゼロではない金融緩和のコスト
次にこの誤解が安倍政権や日銀の政策に与える悪影響をについて検討します。悪影響には緩和のアクセルを踏み過ぎて金利が下がり過ぎることによる弊害や、金融緩和が為替レートの変動を大きくしてしまうことなどがあります。
金融緩和のコストとして元々、認識されていたのはインフレです。しかし、デフレが問題となっている世の中で、インフレを気にする人はいません。こうして金融政策は緩和すればするほどよいとの雰囲気が広がりました。
しかし、ここに来て、金融機関の収益圧迫や年金財政の悪化などが、行き過ぎた低金利の副作用として新たに浮上してきました。先日の異次元緩和の総括検証で黒田東彦総裁もこれを認めました。
日本以上に低金利が問題となっているのが欧州です。ドイツ銀行やイタリアのモンテ・パスキなど大手銀行の信用不安がくすぶっており、欧州発の金融危機を懸念する向きさえあります。
この問題の根底にあるのも行き過ぎた低金利による銀行の収益力低下です。収益を上げることができないため、銀行の体力は徐々に奪われつつあります。このままでは金融危機への対応として始まった金融緩和が新たな金融危機を引き起こすという皮肉な結果になりかねません。
日本の銀行はリーマンショックの打撃が小さかったため、欧州の銀行に比べれば余裕がありますが、現在の低金利環境が続けば、同じ道をたどることになりかねません。
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