「円高=株安は正しくない」の続編です。前回は、日本では通貨と株式市場の関係が誤って理解されていること、円高の悪影響が誇張されていることなどについてお話ししました。今回は、この誤解が金融市場や政策に与えている影響について考えます。最初は市場への影響についてです。
円高に弱い日本株は買わない
日本株は円高に弱いわけではありません。前回お話ししたように、世界経済の悪化や投資家のリスク許容度の低下が原因で円高と株安が同時に発生しているのであって、円高が「原因」で株安が「結果」なのではありません。しかし、「円高に弱い」というレッテルが世界中の金融市場において日本株に貼られており、これが深刻な風評被害をもたらしています。
多くの日本のエコノミストやストラテジストは投資家に日本株を勧める時に、「円安になるので日本株は買い」という勧め方をします。日本人であればこのセールス・トークに違和感はありません。「円安=株高」「円高=株安」と思い込んでいるからです。しかし海外では違います。海外の投資家、特に年金やソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)など長期投資を前提とする投資家はそんな理由では日本株に投資しません。
前回紹介したように世界の主要市場の中で通貨と株式の動きが日本ほど強い逆相関になっている市場はありません。そのため、円安で上昇する(円高で下落する)といわれると、彼らは日本株に奇異の目を向けます。
為替レートはいつまでも一方向に動くものではありません。いつも「円高、円高」といわれている印象がある円ですら、過去10年間の動きを見ると対ドルで75円から125円のレンジ内での推移に止まっています(図表1参照)。
ヘッジファンドなど機動的に動く投資家に「円安で上昇する」と誤解されても問題ありません。彼らは円安になる前に買って、円高になる前に売ればよいからです。ただしすぐに売ってしまうので、彼らの買いには、日本株を持続的に押し上げる力はありません。
一方、年金やSWFが日本株に投資する場合、最低3年は保有するといわれます。日本株が持続的に上昇するためには、こうした長期の投資家の資金を取り込むことが必要です。
しかし、彼らは円安を理由に日本株を買うことはありません。円安でしか上昇しない日本株に投資しても、長期的に利益を上げることは見込めないからです。「円高に弱い日本株でなく、為替レートにかかわらず上昇する市場に投資するよ」ということになります。
東京証券取引所と大阪取引所のデータによれば、昨年度の外国人は現物、先物とも大幅な売り越しでした。一方、今年度に入ってからは、先物では売り買いほぼ同じですが、現物では売り越しが続いています(図表2参照)。
よってこのデータからは、長期の外国人は日本から資金を引き揚げつつあると見られます。大雑把には、現物での売買は主として年金やSWFなど長期の外国人の動きを反映したもの、先物の売買はヘッジファンドなど短期の外国人の動きを反映したものと考えられます。
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