業績モデルとの比較
従来、通貨と株式の関係については、図表7のように考えられてきました。通貨変動が企業業績への影響を通じて、株式の変動を引き起こすとの考え方です(以下、業績モデル)。このモデルでは通貨の変動が原因、株式の変動が結果になります。
一方、今回のモデルでは(以下、リスク許容度モデル)、通貨と株式の動きはどちらが原因でどちらが結果というものではなく、世界経済の動向などによるリスク許容度の変化が原因で、それに応じた低金利国、高金利国それぞれにおける通貨と株式の動きが結果です。通貨と株式は、それぞれ独立して動いていることになります。
リスク許容度モデルは株式の動きだけでなく通貨の動きも説明していることが特徴です。これで今まで説明できなかったことが説明できるようになります。
北朝鮮のミサイル発射など日本近辺で地政学リスクが高まる時、日本株が売られ、円が買われます。この場合、円が買われる理由はうまく説明されていませんでしたが、このモデルではリスク許容度の低下が円高の理由として説明できます。
地政学リスクのように世界経済に関係なくリスク許容度が変動することはあります。であれば、世界経済を外してリスク許容度以下だけにしても問題ないのですが、地政学リスクなどのイベントによるリスク許容度の変動は通常一時的なものに過ぎません。
これに対して例えば世界経済の悪化を理由としたリスク許容度の低下は長期にわたって持続する可能性があります。また世界経済の動向はリスク許容度を介した経路以外にも、業績を通じて株式に影響します。これがリスク許容度でなく、世界経済を起点にしている理由です。
通貨変動の業績への影響は大きくない
通貨変動が業績に及ぼす影響にも触れておきます。いわれているほど大きなものではないとの見方です。
証券会社のアナリストによる業績見通しに基づくTOPIXの予想EPS(一株当たり利益。通常、企業の税引き後利益を発行済み株式数で割ったものを指す)と円の対ドルレートの動きを比較するとどちらかといえば逆相関の関係にあるように見えますが、2007年や2009~10年のように、円高にもかかわらず予想EPSが増加している時期も珍しくありません。
株式市場では円高に振れるたびに、業績を懸念する声が沸き起こりますが、図表8を見るだけでも、市場参加者の反応は行き過ぎだといえそうです。
図表9を見ると、業績に対する通貨変動の影響が限定的であることが、更に明らかになります。韓国では2009~11年のようにウォン高の時にEPSが増加、2008年や2014~15年のようにウォン安の時に減少しています。このようにEPSとウォンが同時に動いているのは、業績に対する通貨の影響よりも、世界経済の動向の影響の方が大きいためです。典型が2008~09年です。
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