伸長する反EU勢力

 このようにEUへの不満が募る中、各国で反EU、あるいはEUに懐疑的な政党が勢力を伸ばしています。英国では反EUを掲げる右派政党、英国独立党が2014年のEU議会選挙で英国内第1党となるとともに、今回の国民投票において離脱派を勝利に導きました。フランスでは反EUや移民制限を唱える極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン氏が来年の大統領選で有力候補となります。

 最近行われたイタリアの統一地方選挙では、「EUが求める緊縮財政に反対、離脱も辞さない」と主張する新興のEU懐疑派、五つ星運動の候補が、与党・民主要候補を下してローマとトリノの市長選を制しました。移民排斥、反イスラムを掲げるオランダの極右政党、民主党は今年4月に行われたEUとウクライナの連合協定に関する国民投票を反対多数に持ち込み、意気が揚がっています。

正念場を迎える欧州の政治統合

 冒頭で述べたように、欧州では今年から来年にかけて独、仏を含む各国で総選挙や大統領選が予定されています。これらの1つ1つが親EU勢力と反EU勢力の決戦の場となるでしょう。結果次第では独仏が進めてきた欧州の政治統合が頓挫することになりかねません。今からドイツの総選挙までの1年強はEUにとって正念場になるでしょう。

 こうした政治スケジュールの中で、今回の国民投票は初戦と位置付けられます。これを制したことで各国の反EU勢力は意気を高め、逆に現行の政権は、反EU派のさらなる勢力伸長や、国民投票の要求がドミノ倒しのように広がることに警戒を強めています。この反EU勢力に勢いをつけたことが、Brexitが持つ最大の影響です。

今年から来年にかけての欧州の注目政治イベント
今年から来年にかけての欧州の注目政治イベント
出所:野村証券、読売新聞より大和住銀投信投資顧問作成
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 第2戦となるのが、6月26日に行なわれるスペイン総選挙です。昨年12月に行われた総選挙でどの党も政権を立ち上げることができなかったことから、再選挙を実施することになりました。

 注目点はEUが要求する緊縮財政に反対するポデモスが政権入りするかどうかです。前回の選挙で第3党だったポデモスは、今回、第2党に躍進すると見込まれています。もし、ポデモスを含む政権ができれば、反EU勢力の2連勝ということになり、さらに勢いがつくこととなるでしょう。ポデモス自身はEU離脱を主張しているわけではありませんが。

 この選挙結果を受けてポデモスの政権入りする観測が高まるようであれば、世界の株式市場の低迷が長引く恐れがあります(執筆は6月25日午前3時現在)

株式市場が警戒するのはEUの解体

 ここまで来ればもうお分かりと思いますが、24日に世界の株式市場が急落したのは、英国経済の悪化を懸念したのでなく、英国に続いてEU離脱を決める国の出現、極端にいえばEUの解体を警戒したためです。

 震源地である英国の代表的な株価指数、FTSE100はわずか3.2%しか下落しませんでした。これに対してドイツのDAX30の下落率は6.8%、フランスのCAC40は8.0%、イタリアやスペインのそれは12%を超えています。

 英国の下落率が大きければ、株式市場は「Brexitが英国経済に与える悪影響」を懸念したといえます。しかし、そうではないところを見ると、市場が警戒しているのは、英国経済の悪化ではなさそうです。南欧諸国の株価下落が大きいことを見ると、市場が懸念しているのはEUの解体と、その場合に南欧諸国が受ける悪影響と思われます。

TPPの発効も遠ざかることに

 最後にBrexitが日本に与える影響について考えてみます。英国経済の悪化がもたらす影響については、既に説明したようにそれほど気にする必要はないでしょう。一方、政治の混乱が波及し欧州全域の景気が低迷することになれば、当然影響も大きくなります。

 選挙などで反EU派が躍進する状況が続けば金融市場もリスクオフが続くことになります。市場を経由したこうした影響の方が大きいかもしれません。また米国の大統領選では、離脱派と主張が近い共和党のドナルド・トランプ氏に多少の追い風となることが考えられます。日本の参院選にはほとんど影響はないでしょう。

 政策面では、年内を目指していたEUと日本との経済連携協定(EPA)をめぐる合意はほぼ不可能になったと思われます。またBrexitは反自由貿易的な性格があります。こうした動きが強まればTPP(環太平洋経済連携協定)の発効がさらに遅れることもありうるでしょう。TPPは成長戦略の大きな成果と考えていただけに残念です。