増税実施こそが株価上昇への道だった

 株式に投資するとき、日本人は海外の株式にも投資しますが、基本的に日本株への投資が中心です。そのため、「増税延期で今より景気が良くなるなら日本株は買い」と判断します。

 しかし、世界中の株式に投資する外国人はそうは考えません。「増税を延期しないと景気が良くならないような国に投資する必要なし」と判断して他の市場に投資します。

 今回外国人が求めていたのは増税延期でなく、アベノミクスが進捗していることの証でした。この点を安倍首相が理解していれば、「アベノミクスは着実に進んでおり、日本経済は改善している」と宣言した上で予定通り増税したかもしれません。おそらくそうすれば、株価は上昇したと思います。

財政を気にしない日本人、気にする外国人

 増税延期の受け止め方以外で、外国人売りを誘発したと思われるもう1つの要因が財政に関する問題意識の違いです。

 世界的には財政健全化は重要な問題です。特に欧州債務危機の記憶が新しいユーロ圏では各国の財政状況が厳しくチェックされています。また米国は財政赤字削減のために、2013年初めにブッシュ減税の廃止や自動歳出削減措置など「財政の崖」と呼ばれた一連の財政健全化策を発動しています。

 しかし、日本は欧米と比べて財政状況が悪いにもかかわらず、財政に関する危機意識が余りありません。安倍首相は増税延期だけでなく、5兆円とも10兆円ともいわれる大型の景気対策を打ち出すと見られています。また野党でも民進党の岡田克也代表は増税先送りと社会保障拡充策の財源としての赤字国債発行を主張しています。与党・野党どちらの主張でも、財政赤字は際限なく膨らみかねない雰囲気です。

 国ごとに事情は異なるので、欧州が正しくて日本が間違っていると一概にはいえません。ただし、外国人投資家の目には日本人の財政赤字に対する問題意識が奇異なものと映っていることは間違いないでしょう。増税延期により日本の財政への警戒感が一段と募ったことも、日本株売りの一因と考えられます。

揺らぎ始めた安倍政権

 このように、ささやかですが、日本の株式市場は消費増税に“No”を突きつけました。日本銀行は1月はマイナス金利を導入して円高/株安、4月は緩和を見送って円高/株安と連戦連敗で、金融政策は一足先に“No”を突きつけられています。安倍首相は伊勢・志摩サミットでホスト役を務めてご満悦ですが、政策は手詰まり、政権の足元は危なくなってきたように見えます。

 例えば前述の大型の景気対策の内容は、消費増税先送りと同時にその内容が発表されると見込まれていました。しかし、記者会見では景気対策に言及したものの内容には一切触れていません。

 それどころか、当初補正予算審議のために8月と見られていた臨時国会の召集は9月末が有力となっています。安倍首相がこだわっていた大規模な財政出動は後退しつつあります。これは財政を気にする向きからの抵抗によるものかもしれません。

 増税延期に関する報道には前回に比べて批判的なものが目立ちます。主要紙の中で読売は好意的ですが、日経は慎重。朝日や毎日は財政をないがしろにする姿勢やこれまでの発言を事実上撤回したことを批判しています。特にサミットから消費増税延期にかけての安倍首相のパフォーマンスは、日本のメディアだけでなく、海外からも批判を浴びました。

 麻生太郎財務相や谷垣禎一・自民党幹事長、公明党の山口那津男代表などの反対を押し切って増税延期を決めたことにより、政府・与党内で安倍首相への反感が生じる可能性もあります。

 もともと第2次安倍政権が上手く行ったのは、麻生財務相と菅義偉官房長官、甘利明経財相の3人が安倍首相を支えたおかげです。しかし、甘利氏は内閣を去り、麻生財務相も参院選後の内閣改造では財務相を辞退するとの観測があります。そうなれば今後の政権運営は今までほど上手く行かなくなると思われます。

 とりあえずの注目点は7月10日の参院選です。現状では安倍内閣の支持率は高く、安倍首相が設定した勝敗ライン、連立与党で改選議席の過半数獲得は容易と見られます。ただもし獲得議席が勝敗ラインを下回ることがあれば、安倍首相への批判が噴出し政権が弱体化、株式市場にも打撃となるでしょう。

 そこまで行くかどうかはともかくとしても、当面日本の政治が株式市場のリスクになる可能性を念頭に置いておく必要があると考えています。