競争力低下と政治の機能不全

 ただし、この停滞は不良債権問題が再燃したからではありません。当時欧米では多くの大手金融機関が破綻、あるいは政府による救済に追い込まれましたが、日本ではそうした事例はありませんでした。不良債権問題が解決され、金融システムが強化されていたためです。

 にもかかわらず停滞局面に逆戻りしてしまったのは、新たな構造問題によるものです。それは日本経済や企業の競争力低下、特に韓国、台湾、中国と比較しての競争力低下でした。

 2012年末に第2次安倍内閣が発足して以来、景気は回復し、株式市場も上昇を続けています。しかしこれはアベノミクスの第1、第2の矢である金融緩和と財政出動がきっかけとなったもの。構造問題がこのままなら95~96年や99~2000年のように長期停滞に逆戻りすることになりかねません。そうならないために競争力の回復が不可欠であり、そのために必要なのがアベノミクスの第3の矢、成長戦略の遂行です。この点については後ほど述べます。

 競争力低下と共に、失われた20年後半の原因となったのが、政治の機能不全です。2006年の第1次安倍内閣から2012年の第2次安倍内閣まで、7年連続で日本の首相は交代しました。こうした状況で、政府に何かを期待できるはずがありません。特に09~12年の民主党政権は、党内抗争に明け暮れて、「決められない政治」「政治の機能不全」などと呼ばれました。これも失われた20年を生んだ原因の1つです。

 ここまで失われた20年の経緯と原因について述べました。ここからは失われた20年が終了したと考える理由を説明します。

企業業績は史上最高を更新

 失われた20年を引き起こした原因のうち、不良債権と金融システム不安は小泉政権が解決しました。したがって残り2つの構造問題を解決することが、失われた20年を終了させるための、必要条件です。まずは競争力について考えます。

日本企業の経常利益の推移(全産業、年度ベース)
日本企業の経常利益の推移(全産業、年度ベース)
出所:財務省ホームページより大和住銀投信投資顧問作成
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 財務省が発表する法人企業統計によれば、日本企業全体の経常利益は、07~09年度にかけて3年連続で減少したものの、その後は15年度まで6年連続で増加しました。2013年度には06年度を上回って、過去最高を更新しました。その後も更新を続けています。

 今後についても、増益が続く見通しです。例えば大和証券では、日本の主要上場企業210社(大和210)の経常利益が2016年度が2%増、17年度は11%増になると見ています。

 リーマン・ショック後の一時期いわれた「日本企業は韓国企業や台湾企業に勝てない」などの声も最近は聞こえなくなりました。日本企業の競争力は既に相当程度回復したように思います。ではどのようにして日本企業は競争力を回復したのでしょうか?

経営者にやる気を取り戻させたアベノミクスの成長戦略

 まず大切なことは、企業の経営姿勢の変化です。失われた20年の後半には「日本企業は必要以上に現金を抱えたがる」といわれました。経営者としては「リーマン・ショックのような危機の再発に備えるため現金を保有しておきたい」のですが、そんな消極的な姿勢では競争力の向上は望めません。このままではじり貧という状況がしばらく続きました。

 こうした企業の姿勢を変えたのが安倍首相の2度目の登場です。2012年末に発足した第2次安倍内閣は、法人減税、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、インフラ輸出など親ビジネス的な成長戦略を矢継ぎ早に打ち出しました。これが企業経営者にやる気を取り戻させます。

 特に効果が大きかったのがコーポレート・ガバナンス強化です。これにより上場企業の経営者は、自己資本利益率(ROE)などの経営目標やその目標を実現するための戦略を株主に提示し、実行することが求められるようになりました。もはや特段の理由なく現金を抱える経営は許されません。こうして日本企業は独自の成長戦略を展開するようになります。

スピード感を身に付けた日本企業の経営者

 昨年10~12月の決算は円高にもかかわらず上場企業全体で増益となり、好決算だったと評価できます。各社の決算発表を見ると、それぞれの成長戦略とその成果を見ることができます。

 岡三証券の集計では2月13日までに10~12月の決算を発表した東証1部上場1642社の売上高は前年同期比で2.4%減、経常利益は8.8%。減収ながらも増益となりました。

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