トランプ大統領が安倍首相を厚遇した理由

 それにしても、安倍氏を全く想定外のレベルで厚遇したトランプ氏は、これまでの同氏とは別人のようです。なぜこうした結果になったのでしょうか? 理由は3つ考えられます。

 1つはトランプ氏と関係を作ろうとする安倍氏のこれまでの努力が実を結んだことです。関係作りは、トランプ氏側にもコンタクトするよう安倍氏が大統領選前に命じたことから始まりました。当時は保険としての位置づけでした。その後も、大統領選直後に訪米して会談しています。フットワークの軽さ、思い切りの良さは安倍氏の長所です。これが最大限に発揮されました。

 2番目は米国側の事情です。最近トランプ氏が態度を軟化させたのは日本に対してだけではありません。中国に対してもいったんこだわらない とした「1つの中国」を認めました。トランプ氏が対日政策だけでなく全般的に、これまでの恫喝路線の転換を図っている節があります。

 恫喝路線は当初こそ自動車メーカーの工場移転阻止などの成果を上げましたが、最近は内外から批判を浴びています。メキシコには壁建設の費用負担を拒否されました。移民などの入国規制は大きな混乱を招いています。その上、裁判所に執行を差し止められるなど散々です。トランプ氏が路線の修正を図る方がむしろ普通でしょう。

 また、入国規制が問題となったのは、内容もさることながら、関係部署への通知が不充分なまま実施したためです。さすがにトランプ氏も懲りたようで、最近は事前に専門家の意見を聞くようになりました。例えば新しい入国制限措置は、予告はしているものの、まだ関係者の間で検討中です。

 専門家の意見に耳を傾ければ無茶苦茶な政策は自然と少なります。これも結果的に日本に対して厳しい要求が出なかった理由の1つになったと見ています。

 3番目は安倍氏とトランプ氏の強い信頼関係です。トランプ氏が安倍氏を気に入っていることは明らかで、ゴルフに会食、もはや「ヤンデレ」(ゲームなどでキャラクターへの好意が行き過ぎて病的な状況になること)状態です。この関係も日本に有利に働いたと思います。

 「アジア・太平洋地域の貿易ルール作りを日米が主導」などは、TPP離脱を公式表明してまだ1ヵ月も経っていないトランプ氏に向かって安倍氏もよく言えたと思いますが、トランプ氏としては「シンゾウがいうならだOKだ」のようなノリで軽く了解したのではないかと想像しています。トランプ氏の「ヤンデレ」に乗じた安倍氏の「神対応」といったところでしょうか。

安倍首相への評価が日本株を押し上げる

 最後に市場への影響です。今回の首脳会談により、米国が日本に無理難題を押し付けてくるリスクは低下しました。これは日本株にとって大きな好材料です。また為替市場では、トランプ氏が円安誘導を非難することで生じる円高リスクは大きく低下したと考えています。もちろん、円安になるとまでは言えませんが。

日本の予想PER(月次、予想PERは今後12ヵ月ベース)
日本の予想PER(月次、予想PERは今後12ヵ月ベース)
出所:Thomson Reuters、東証株価指数(TOPIX)ベース
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 中長期的に重要なのは安倍氏の評価の高まりとそれが株式市場に与える影響です。日本の株価収益率(PER、株価を1株当たりの利益で除したもの)は長期的に政治の影響を受けます。小泉純一郎政権期は日本株を押し上げ、15~20倍と高い水準で推移していました。(注:PERが高い方が株価は高くなります)。これは小泉氏への期待感を反映したものです。

 しかし、民主党政権期は逆に民主党政治への失望感からPERは低水準での動きに止まりました。第2次安倍政権発足後のPERは民主党政権期より高くなりましたが、それでも上限が15倍と小泉政権のそれを下回っています。

 今回の首脳会談で安倍氏のリーダーとしての評価は世界でトップクラスになったと思います。このまま行けば安倍氏が首相を続けていること自体が日本株の買い材料となり、小泉政権期のようにPERの水準が上方にシフトすることがあり得ます。これが今回の首脳会談の日本株への影響を考えるにあたっての、最も重要なポイントと考えています。

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