この人選を見るとトランプ政権の通商政策における当面のテーマは対中貿易赤字の是正となりそうです。その後は他の国と交渉を行うことになるでしょう。ナバロ氏、ライトハイザー氏のいずれも多国間の自由貿易よりも二国間の交渉を重視する立場であるため、環太平洋経済連携協定(TPP)が発足する見通しは立ちにくく、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも否定できない状況が続くと思われます。

閣僚人事から見える3つのこと

 以上、トランプ政権の閣僚候補を紹介してきました。この顔ぶれから見えてくることは3つあります。以下に紹介します。

1.トランプ氏はやる時はやる
 冒頭に述べたように、トランプ・ラリーの持続性を楽観視する人々は、慎重派が懸念する保護貿易や移民への規制強化について「トランプも大統領になれば、無茶はしない」と高を括っているようです。しかし、この人事を見る限りトランプ氏に手加減するつもりはなさそうです。移民に対する規制強化にしても通商政策にしても、選挙戦中のトランプ氏の公約を実行するにふさわしい面々が担当者に指名されています。

 市場参加者は安易な楽観論に与するのでなく、トランプ氏は自分たちに都合の悪いことでも実行する時はするというリスクを肝に銘じておくべきでしょう。

2.トランプ氏はやらない時はやらない
 既に述べたように、最低賃金引き上げは元々トランプ氏の公約に入っていませんでした。クリントン氏への対抗上、トランプ氏も賃上げ支持に転じたわけです。パズダー氏の起用を見ると、本気でやる気はないようです。この最低賃金引き上げと似ているのが、インフラ投資です。

 10年間で1兆ドルのインフラ投資は大規模減税と並ぶ楽観派の拠り所です。ですが、トランプ氏の公約に元々あったのは「インフラ投資」のみで、金額は入っていませんでした。日経テレコンで検索すると、「1兆ドル」と金額が載った記事が出てくるのは11月に入ってからです。

 クリントン氏はインフラ投資を景気対策の柱に据えていました。その額は5年で2750億ドルです。定かではありませんが、トランプ氏はクリントン氏に対抗して、「5年で5500億ドル、10年で1兆ドル」ということで1兆ドルになったとの報道を見た記憶があります。

 最低賃金の引き上げが選挙向けのリップ・サービスに終わるのであれば、インフラ投資がそうなってもおかしくありません。ゼロ回答はないにしても、話半分以下に聞いておく方が無難と思われます。

3.最優先課題はオバマ政権の否定
 ここまでの閣僚人事を見ると、トランプ氏にとっての優先課題はオバマ政権の実績を否定することにあるように見えます――オバマケアの廃止、移民の規制強化、中東政策の見直しなど。一方、経済政策についてはあまり見えてきません。

 景気が悪ければ、経済対策に力を入れるでしょうが、足元の米国経済は好調です。またオバマケアの廃止や移民政策の見直しなども公約として掲げたものであり、経済政策よりこちらを優先しても公約違反ではありません。

 市場参加者は往々にして「経済最優先」の発想に陥りがちです。トランプ・ラリーに楽観的な市場参加者も、トランプ政権が経済を優先すると考えていると思います。ですが、トランプ政権は例外と考えるべきでしょう。

 市場でもトランプ氏のツイッター口撃がトヨタ自動車に及んだのを見て、楽観論が萎み始めたようです。閣僚人事の観点からもトランプ・ラリーは根拠なき楽観に支えられたものであり、今後はその反動を警戒する必要があると考えています。