矢部:その人がいることで組織が回る世代であり、組織にとっては重要な世代です。若い人たちだけでは、組織を回すことはできません。旧国鉄が民営化したとき、社内で「これからは若い人たちの時代だ」とよく言われました。そして、ある部署で古い人たちを現場に出したのですが、残った若い人たちだけでは、組織を動かせなくなったのを目の当たりにした経験があります。

 ところが多くの50代はそう認識せず、20代、30代、40代と同じことをしようとします。会社の方もいつの間にかそういう目で50代を見てしまっている。しかし、年齢を重ねて立場が変わったのですから、自分自身が変わらないとなりませんし、世代の役割をきちんと認識してもらわないと存在意義がありません。

入山:矢部さんがTESSEIにいらしたのは57歳のときでしたね。

組織を回すのが50代の役割

矢部:ですから、私は組織を回すことに専念しました。職人は現場にたくさんいるのですから、職人が力を発揮してくれる組織を作りバックアップしていくのが、私の役割です。

 見学にいらっしゃる企業の中には「(規模が小さい)TESSEIさんだからできるんですよ。うちでは無理ですね」とおっしゃる方もいます。びっくりします。つまり、その方々の会社は規模が大きいので無理と言いたいのでしょう。だったら見学に来なければいいし、それに、1万人企業だって、1万人が同じ場所に集まって働いているわけではないでしょう。支社、支店の規模はTESSEIよりずっと小さいはずだし、その一つひとつが集まって大会社をつくっているんですから、そう考えればいいと思うんですよね。

入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授
入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授

入山:「矢部さんがTESSEIからいなくなったらどうなるのか」とも聞かれませんか。

矢部:よく聞かれます(笑い)「私がいなくても心配ありません。現場が勝手に走っていますから」って答えます。(笑)。

 こう言えるのも、そういう仕組みづくりをしてきたからです。その一つが「二流、三流の戦略でもよい。一流の実行力を持とう」というものです。これを言い始めたのは2007年で「みなさんは、現場の弱点、課題と解決策を一番知っている。会社はノーと言わないから、提案をし実践していきましょう」という取り組みです。初年は年間400件弱でしたが、今は5000件を突破しています。TESSEIはこうしたスタッフの知恵と工夫、努力で生き返ってきました。

 こういう話をすると、審査や予算配分が大変でしょうと言われることもあるのですが、そんな面倒くさいことはやっていません(笑)。提案は、したらすぐにやってもらうことにしています。「早くて、正確で、完璧なお掃除」をまっとうする根本的なルールさえ守ってくれれば、あとはどんどん変えてくださいと言っています。

 そのためのお金もあらかじめ現場に預けてあります。必要なお金といっても1件2000~3000円くらいかかればいい方で、足りなくなったら言ってください。ただし飲み代に使ったらだめだぞと言って預けているわけです。

 ただ、本社は何もしないんじゃないんですよ。本社がやることは、みんなに取り組んでもらった中から「これは、みんなに任せず本社がやるべきことだ」というものを見つけ出し全社施策として展開するんです。

入山:なるほど。それなら「提案したものの本社からの返事がない」といった事態は避けられますね。

矢部:「本社は偉いんだ、私たちが管理、監督しないといけないんだ」という感覚でしたら、ダメですよね。

入山:「自分がいなくなっても現場が自律的に動く」と言い切れるのは、すごいですね。

部下は上司の鏡

矢部:それは、そう願っているから自信を持っているように申し上げているきらいはありますけどね(笑い)。「私たちはサービス業だ。その商品はお掃除ではなく旅の思い出だ」という大きな方向転換はおばちゃんたちの心をつかまえることができたといえますし、その面では自信を持っています。でも、この後、さらなる大きな方向転換を迫られた時に誰がリーダーとしてみんなを引っ張っていくかですよね。

 時々、「うちの現場はまったく動かない。どうしようもない奴の集まりだ」という方にお会いしますが、それは現場に失礼だし、色眼鏡で見ているということの表れです。自分がどう関わっているかということを認識してないんじゃないかと思ってしまいます。

 「新入社員のうちはいいけれど、4~5年経ったらモチベーションがなくなる。どうしようもない」という人もいますが、では、そうしたのは誰なのか。トップであり、上長でしょう。自分の為すべきことをしていないから、他人事としてそういう言葉が出てくるんですよね。

入山:部下は上司の鏡なんですね。