入山:矢部さんはよく現場に出られていますが、現場のあら探しをしているわけではないですね。

矢部:していることはほとんど激励ですよ。

入山:なるほど。

矢部:作業しているところに姿を見せるだけでも「私たちを見ていてくれる」という激励になりますからね。ただできるだけ「頑張ってるね」とか声はかけるようにはしました。

入山:アラ還女性を怒ったり褒めたり、毒蝮三太夫みたいです。

矢部:実は、褒めるのは難しいんですよ。叱るのは簡単だけど、褒めるのは本当に難しい。口で「いいね」と言うだけなら簡単ですが、口先だけなのはすぐに気付かれますし、「この人、何も知らないくせに何言っているの」ともなりますからね。だから褒めるときは、本気で褒めなくてはならない。

入山:アラ還女性を上っ面だけで褒めると、関係が悪くなることもありますね。

矢部:調子づかせることもあるし、「あの人と矢部っちはデキている」と言われたこともありますよ。

入山:(笑)

矢部:いやいや本当に。3人くらいに言われて、これはまずいと思いました。こうなると、チームの和を乱しますから。ですから、褒めることは周りで一緒に仕事をしている仲間に任せることにしました。それが現場の優れたサービスを取り上げる社内の「エンジェル・リポート」なんです。普段のことを知っていないと、きちんと褒めることはできません。

激励は褒めることとは違う

入山章栄早稲田大学ビジネススクール准教授
入山章栄早稲田大学ビジネススクール准教授

入山:激励とは褒めることではないんですね。

矢部:自分の若いときもそうでしたが、やはり認められたいという気持ちは誰にでもありますから。認められないと、疎外感を抱いたり孤立したりします。

入山:そうですね。

矢部:ただ、認めるにも情報収集が必要です。そのためには、現場の誰が何をやっているか、知らなくてはいけません。だから情報収集のツールを作りました。エンジェル・リポートもその一つです。

 よく、現場を知りたければ現場でインタビューしろとかヒアリングしろとか言いますが、そんなことをしても、現場の問題は絶対に分かりませんよ。会議室に呼んで「最近どうだ」と聞いたって、緊張させるだけですし、いい答えしか出てきません。

 仮に悪い話が出てきても、それは全体のごく一部。偉い人が現場を見て何かを見たり聞いたりしても、それもごく一部に過ぎないことを忘れてはいけません。実際の現場では、365日、いろいろなことが起きています。

入山:現場で得た情報を元に、改善指示を出すことはありますか。

現場で見たことから改善指示をするのはダメ

矢部:現場で見聞きしたことを本社に持ち帰り「すぐ改善しろ」と指示を出すようなバカなことは、絶対にやりたくない。

入山:興味深いですね。現場に行って後で指示を出して満足している経営者はたくさんいそうですが。

矢部:そんなことをしても、本社の部課長が振り回されるだけです。それでなくても忙しいのに。

入山:偉い人が視察に行くとなると、案内もしなくてはならないですしね。

矢部:そうなんですよ。現場で気になることがあったら、現場の所長やインストラクターに言うだけでいいんです。

 では本社は何をするかというと、座して待っていていい。そして、エンジェル・リポートなどの中から、本社がすべきことを一生懸命考えて、投資・人事・ルール作りをすればいい。本社が現場と同じことをしてはダメなんです。

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