入山:すると日本に足りないのは、「ビジョンに応じてマックスを目指す姿勢」と、「マッチングの機会」ということでしょうか。「資生堂ショック」にしても、資生堂の方針と自分の働き方が違うと感じた女性は、もっと「自分がマックスを目指せる会社」に移ってしまえればいいのですが、硬直的な労働市場がそれを許さないのかもしれません。「資生堂を辞めてうちに来てください」という会社が登場してもいいと思うのですが。

スキルベースか、ビジョンベースか

河合:まだ、そういう覚悟を決める企業が少ないんですね。

入山:過渡期なのかもしれませんね。

河合:ここを乗り越えるには、男性も女性も踏ん張らないと。ただ、女性管理職を30%にするという数値目標だけでは踏ん張れない。数値目標はすぐに変わりますし、あの努力は何だったんだと言うことにもなりかねない。では何があれば踏ん張れるかというと、道しるべです。

入山:つまり、やはり会社のビジョンですね。

河合:そうです。目指すべきものが共有されて初めて、山や谷に遭遇してめげそうになっても、自分も頑張るから君も頑張ってくれと、一緒に乗り越えていけるんです。

入山:最近、日本の大手企業の人事担当者の方々と交流させていただく機会があるのですが、その中には、会社の若手を新興ベンチャーなどに送りこみ、そこで修羅場を経験して「修羅場で意思決定するスキル」を身につけてもらって、戻ってきてもらおうと考えているところもあります。これはつまり「スキルベースの成長」を期待しているということです。

 しかし、ベンチャーの人たちはスキルがあるかどうかよりもまず、給料が安くても「これからこう世の中をを変えていこう」というビジョンに共鳴できるかどうかを採用の時に重視します。スキルベースとビジョンベース、このミスマッチもあるんです。

河合:私は心の専門家なので、スキルを唯一上回るものが、心だと思っています。どんなにスキルやテクニックを身につけても、心が伴わなければ生かせません。逆に心だけでもダメ。スキルと心、どちらも必要です。

 究極のスキルをもったオーケストラの指揮者は、目配せだけで指揮ができるようになると聞いたことがあります。心がテクニックを超えちゃう。これって凄いですよね

入山:小澤征爾さんも、英語はそれほど堪能でないと聞いています。それでも指揮者として世界的に活躍できるのは、そこかもしれませんね。

河合:最近はやたらとスキルやテクニック本ばかりが出ていて、逆に、心を前面に出すと「精神論」だのなんだのと否定される風潮がありますよね。ホントは気持ちの大切さを誰もが分かっているのに、堂々と言い出せない空気があって。気持ちの地下化っていうか、なんというか。でも先ほどの例のように、若者をベンチャーに修行に出すと、気持ちで踏ん張るしかないから、地下化されていたモノが大きくなって帰ってくるかもしれません。

 つまり、ただ生意気なだけだと思っていた若造が、自分たちよりすごい奴になって戻ってくるかもしれないのです。さてそのとき、受け入れる側には受け入れるだけの度量があるでしょうか。

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