入山:それなのに「手段」がいつのまにか「ビジョン」として掲げられてしまっている企業が少なくない、ということですね。河合さんから見て、いいビジョンを持っているなと思う企業はありますか。

<b>河合薫(かわい・かおる)氏</b><br/>健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士<br/>東京大学大学院医学系研究博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学講師、早稲田大学非常勤講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。
河合薫(かわい・かおる)氏
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士
東京大学大学院医学系研究博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学講師、早稲田大学非常勤講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。

河合:「最後に潰れよう」という一見、ネガティブなフレーズがビジョンになっている会社です。ラジオ局なんです。ラジオはいつか消えていくメディアかもしれないと危機感を覚えたある役員が、「テレビに駆逐される羽目になっても、自分たちは最後まで踏ん張ろう」という意味で言った言葉が、口伝で社員たちに受け継がれているんです。社員はその言葉を合い言葉に、「ラジオというメディアで、ラジオマンとして自分たちがすべきことは何か?」を常に考える。つまり「自分たちの存在意義、やるべきこと、決断」。その道しるべになっている。ビジョンのために掲げたビジョンじゃないんです。これが真のビジョンだと思うんですよね。

入山:なるほど。「最後に潰れる」ための手段として必要なら、グローバル化したりダイバーシティを高めたりすればいいということですね。

何のためのダイバーシティなのか?

河合:そうです。もし組織風土を変えたり新しい風を吹かせるためのダイバーシティなら、30%などと言わず半分を女性にすればいいと思います。

 しかしそうではなく、「女性」という理由で昇進できなかったり海外勤務ができなかったりした「事実」を是正したいのなら、数値目標を掲げて女性に優先的に機会を与えればいい。

入山:その点で言うと、例えばグーグルは「当社はダイバーシティを重視するが、それはイノベーションのためのダイバーシティだ」とうたっています。中でも彼らが大事にしているのは、私の本でも紹介した「タスク型のダイバーシティ」、すなわち様々な能力・体験や価値観を持つ人で組織を豊かにすることです。これは、単に性別や国籍、年齢といった見た目だけにこだわった「デモグラフィー型のダイバーシティ」とは異なります。

河合:2013年の映画「インターンシップ」をご存じですか。スマートフォン普及のあおりを受けて会社が倒産し、失業した中年男性2人が米グーグルのインターンに応募するという物語です。そこで優秀だと認められると正社員になれるからと面接に臨むのですが、ふたりは高学歴ではないしセールス経験しかないため、チンプンカンプンの答えしかできなくて不合格になりそうになります。でも、面接官のひとりが「うちの会社ってダイバーシティだよね?」と言い出して、「だったら、このオジサンたちこそ必要なのでは」となるんです(注:同映画は日本では未公開)。

入山:面白い展開ですね。

河合:つまり、ダイバーシティって、「ちょっと無理じゃないか」「これはないだろう」という人たちを入れていく作業なのです。そのためには、受け入れる側にそれだけの度量がないと成り立たない。裏を返せば、許容性がない組織にダイバーシティは無理です。

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