「圧倒的に優秀」な海外人材

 企業が自ら海外に出向き、支社や取引先、関係のある大学などを巡って人材を確保するケースもあるが、多くの場合、コストなどの面を考慮して、人材紹介会社を通して採用活動を行っている。

 汪が活用したのはリクルートキャリアが行っている「ワーク・イン・ジャパン」という事業。汪が参加した2015年の合同説明会にはアジアから96人が参加し、23人が内定した。16年8月もほぼ同じ人数が面接を受けた。同社によると10年から15年までの間に約740人が同事業を経て日本企業に就職したという。

 採用までの流れは、まずクライアント企業の求人依頼を受け、リクルートキャリアが海外支社を通じてアジア各国・地域で学生を募集。セミナーや説明会を開き、参加した学生に試験や面接を受けてもらった上で、東京または現地で日本企業と学生が直接面接し、ニーズとシーズが合致すれば最終的に内定するという仕組みだ。

 今夏、同社の合同説明会に参加した日本企業は、都市銀行、大手メーカー、総合商社、IT企業、コンサルティング会社などだった。同社によると、とくにコンサルティング会社は中国からの学生を望む傾向が強く、その理由は「圧倒的に優秀だから」(企業の採用担当者)。人口が多く、常に競争を強いられる中で難関校に入った中国の学生は「熱量が強く、目標に対する思い入れが非常に強い」と評判だ。

 企業としては留学生も採用しているが、当然ながら、来日する留学生数は限られており、母集団がそもそも小さい。もちろん、日本語ができ、日本文化もかなり理解しているというメリットがあり、日本企業として使いやすいという側面はある。だが、英語が比較的苦手な学生が多く、採用企業からは「総体的に見て必ずしも優秀というわけではない」という声も上がる。

 そこでアジア全域に視野を広げて「地頭のいい学生を採用したい」という考えから海外採用が生まれた。いわば、海外から少数精鋭の“1本釣り”だ。

 現地の大学から採用するとなると、日本語ができないケースが多いが、リクルートキャリアによると、採用後に猛特訓するから問題はないのだという。同社に応募してくる学生は文系と理系が半々で「文系の場合、英語でディスカッションができるほど英語力が高く、自らの考えを英語で流暢に話せる学生が多い。理系の場合、日本ではそもそもIT人材が少ないということもあり、即戦力なので採用しやすい傾向がある」(同社)。留学生枠とは違う人材が欲しいという理由からの需要が多く、他にもいくつもの人材紹介会社がこうした事業を実施しており、海外から直接人材を採用するケースが目立ってきている。

 汪も最終的にはこの「海外採用」の制度を利用して、日本企業の内定を得ることができた。

「どうしても、日本に行きたい」

 900人中わずか数人の採用と聞くと「すごい!」と思うが、汪が日本企業の内定を得るまでの歩みを振り返ると、そこにはある種の皮肉を感じずにはいられない。

 汪は15年春まで東京大学修士課程に在籍する留学生の立場だった。私が出会った頃はちょうど就職活動に力を注いでいたが、なかなかうまくいかず、いつも悩んでいた。

 つまり彼女はかつて「留学生採用」で日本企業への就職を試みていたのだ。

 「たくさんの日本企業を受験しましたが、すべて筆記試験の段階で落ちてしまって……。ショックでがっくりしましたね。落ち込んで、どんどんネガティブになっていきました」

 「忘れもしません。筆記試験のとき、シダ植物とコケ植物の違いは何ですか? なんていう問題も出題されました。何よそれ!って……。そんなのわかるわけないじゃない! 私を採用してくれる企業はこの日本に1社もないんじゃないかと思って……」

 就活で苦労した人ならわかるだろうが、不採用が続くと自分を全否定されたような気分になるものだ。汪も生まれて初めて、日本での就活で挫折を味わった。

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