今回の取材旅行中、私はセレクトショップを訪れることができなかったのだが、偶然、飛行機の機内誌を読んでいたとき、行ってみたいと思っていたショップの特集が目に留まった。

 それによると、ファッションデザイナーのひとりは1983年生まれの33歳。ファッションを学ぶためにニューヨークのファッション工科大学に留学。イタリアでも修業を積んだあと、地元上海に戻り、2013年に自らのブランドを立ち上げたという。インタビューには「留学中はニューヨークが世界の中心だと思っていたが、上海に戻ってみると、それぞれの場所に、それぞれの面白さがあることを知った」と書いてあり、気負ったところはない。とくに中国色を打ち出した中国的なデザインというわけではなく、どこかコスモポリタン的なデザインだ。

 この記事を読んでいて、私ははたと気がついた。今回の中国取材中、アトランダムに30人ほどの中国人にインタビューしたのだが、考えてみれば、カフェやホテルの経営者、デザイナー、大学教師など、取材相手の多くが30代の80后だったのだ。中国の平均年齢は日本より10歳ほど若く約30歳。だから、30代の中国人に出会う機会が多いのは、考えてみれば当たり前で、不思議なことではないのかもしれない。中国のボリューム世代であり、日本でいえば「団塊ジュニア」前後の働き盛りに当たるからだ。

中国には珍しい体験型の宿泊施設

 だが、とくに感じたのは、デザイン性が高く、創造性に優れ、従来中国になかった新文化などをリードしているのが80后という特徴があるのではないか、と思ったのだ。

 杭州で出会ったホテル経営者も、前述のデザイナーと同じく33歳だった。彼も以前はデザインの仕事をしていたが、農村にある古い民家を活用できないかと考え、それまで中国にあまりなかった民家を改装したプチホテルの経営に乗り出した。1泊1000元(約1万8000円)ほどだが、都会で疲れた同世代(30代)以上の夫婦や家族連れがSNS(交流サイト)で情報を拡散し、密かな人気となっている。都会の人にとっては珍しい野菜の収穫体験や魚釣りなどが目玉で、従来中国にはなかったタイプの宿泊施設だ。彼は「自分と同世代の中国人は仕事のプレッシャーに追われている。リラックスできる場を提供したいと思った」と、ホテルをオープンする経緯について話してくれた。

 このホテル経営者の事務所を訪ねたとき、仲間のひとりだというグラフィック・デザイナーにも出会った。彼は1982年生まれの34歳。江西省の田舎の出身だ。幼い頃から絵を描いたり粘土をこねたりするのが好きで、早くから美術の道を志した。一人っ子だが、両親は「何でもやりたいことをやらせてくれた」(同デザイナー)という。

 上海の大学で専門的に美術を学び、デザイン会社を経て、現在は独立してデザイナーとして活躍している。いくつかのオブジェや革小物、文房具のようなものを見せてもらったが、センスがよく、素材にこだわった手触りのよい作品が多かった。そのデザイナーは「日本のグラフィック・デザイナーの大治将典さんの作品が好きなんです」と語っていた。デザインに優雅さがあり、東洋的な雰囲気を感じるからだそうだ。どうしても見たい美術展や個展がある場合は、わざわざ飛行機に飛び乗って、日本に出かけるとも話していた。

 私が出会った80后に共通しているのは、自由な発想と創造力、そして柔軟性を持っているという点だ。さらにいうならば、自然な形で隣国・日本の文化を受け入れ、真似ごとではなく、自分たち流にアレンジできているという点だろう。どちらも、それまでの中国人にはなかった特徴と傾向だ。

 中国の教育は、よく知られている通り「詰め込み式」のスパルタ教育である。中国の中学・高校には、日本と同じようなクラブ活動はほとんど存在しない上に、中国では勉強でいちばんになることが最善とされてきた。むろん、受験競争も厳しく、ボリューム世代である彼らは勉強漬けの毎日を送らざるを得なかった。だから、彼らの中で優秀な人は、勉強はできるかもしれないが、独自性とか発想力はあまりないのではないか、と私は思ってきた。

 ところが、じっくり話を聞いてみると、必ずしもそうではないようだ。もちろん、大多数の中国人の価値観は今も勉強一辺倒だが、それ以外の価値観も徐々に許されるようになってきている。最近の10代の若者にはとくにそれが顕著だが、その先駆けとなっている第一世代が、1980年以降に生まれた彼らなのではないかと思うのだ。