「中国人を見下した、嫌ないい方ですよね。不愉快です。あまり好きではありません」(百貨店関係者)
「日本人が中国人を嘲笑している表現だと思いますよ」(マスコミ関係者) 「中国人が何でもかんでも買い漁っているというイメージ。成り金を小バカにしている人の“上から目線”の言葉だと思います」(観光団体の関係者)

「ええ~っ? 爆買いという言葉が、上から目線?」

私自身は少しもそんなふうに感じていなかっただけにちょっとしたショックを受けた。むしろ、私は友達と話すとき「今日、爆買いしちゃった」とか「今日はプチ買いだけ」などと茶化し、この言葉を多用していたくらいだったからだ。私が無頓着だったのだろうか……。いや、でも……。

 日中のGDP(国内総生産)が逆転したのは2010年。その頃から日中関係は急速に悪化していったが、観光庁のデータなどを見ると、中国人観光客は12年ごろから増えていた。同年に反日デモが起きて観光客は一時的に大幅に減少したが、1年後の13年秋にはすぐに盛り返した。14年からは本格的に中国人の訪日客が急増。15年はクルーズ船の入港なども増え、日本中が「爆買い」一色となったことは、いうまでもない。

「爆買い」という言葉の定義はさておき、この現象によって、日本人の対中感情が好転したことは確かだ。

 世論調査などには反映されていないが、爆買いが日本経済によい影響を与えただけでなく、「(あの)中国人が日本観光を楽しんでいる」「(あの)中国人が日本の製品をすばらしいといって喜んでくれている」ということは、日本人に好意的に受け止められた。「相手がそういうふうに思ってくれているのなら、まあ、こちらだって……まんざらでもないけど…」。日本製品に目を輝かせている中国人たちの映像を見て、日頃は中国を快く思わない人でも、内心ちょっとうれしく思ったのではないだろうか。

 しかし、GDP逆転以外に、日本人が中国人を快く思わなくなった理由に、尖閣諸島での挑発行為や南シナ海問題、サンゴ礁問題などがあった。世界での中国の存在感は日増しに強くなっていき、傲慢な振る舞いをする隣国に恐怖や怒りを覚えた人が多かった。

 また、横暴な中国に忸怩たる思いを抱きながらも、経済的にどんどん発展していく姿を見て「このまま中国が日本よりも発展し、どんどん先へと行ってしまうのか?」「日本は取り残されるのか?」という不安や焦燥感、そしてある種の嫉妬が広がり、それが(そのことを意識する、しないに関わらず)日本人の対中観をますます悪化させていったのではないか。ついこの間まで、彼らは私たちのずっと後ろを歩いていたのに……と。

爆買いされて知った日本品質

 だが、日本人が何十年も前から使っていた携帯用のボトルや化粧品、安い日用品や、ふだんから普通に食べている食品などを「こんなものが欲しかった」「中国には売っていない。使いやすい」「すごくおいしい」とありがたがり、むさぼるように買っている姿を見て、私たちは彼らの中国での暮らしぶりを垣間見ることができ、「日本の暮らし」が中国と比較して、いかに便利で高品質なものであるのかを客観的に知ることができた。中には、少し自分たちが優位に立てるような気がして「ほっ」とし、心を落ち着かせることができた人もいたのではないだろうか。

 東日本大震災のとき、悲しみのどん底にあったのに、危機的状況の中でも日本人が理路整然と行列に並び、割り込みをすることなく食料を受け取っている姿を見て、中国人は感動した。また、そうした中国の報道が逆に日本に流れることで、私たちは客観的に、冷静に、自分たちの国を見ることができたという面があった。「爆買い」現象も同様で、外部から高く評価されることによって、日本人が日本のよさに気づくことができる、ひとつのよい出来事だったと思っている。

 だからこそ、「爆買い」により、日本人の対中観はよくなったのだ、と私は思っていた。

 ところが、新刊『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』の取材をしていたこの数カ月、冒頭のようなネガティブな意見を何度も耳にして、私は改めて日本人の複雑な心情を知ることになった。

次ページ 「貧乏人は “抗日”してろ。金持ちは黙って日本に行く」