今も一部で避難生活が残る東日本大震災。鬼怒川が決壊した関東・東北豪雨。熊本城も破壊した熊本地震。200人以上の犠牲者を出した西日本豪雨。そして北海道胆振東部地震。ここ数年だけでも歴史に残るような大災害が何度も発生し、そのたびに多くの人々が住む場所を失った。しかし我が国には被災者に仮の住まいを提供する仕組みがある。ただ、その背後には大きな闇が存在すると“防災の鬼”渡辺実氏は語る。

北海道勇払郡安平町。まっすぐな一本道から少しだけ見下ろす場所に北海道胆振東部地震被災者のプレハブ型応急仮設住宅80戸がひっそり建っている。前日から降りだした雪が場所によっては膝よりも深く積もっていた。仮設に住まう70代とおぼしき男性が、大きなスコップを巧みに使い、駐車場の雪かきをしていた。
絨毯のように敷き詰められた真っ白なパウダースノーを踏み、敷地内におじゃました。渡辺氏が話しかけると、男性は作業の手を休めて応じてくれた。
「ここに移ってからもう1か月になるな。生活? そりゃ変わったさ。なんにもなくなってしまった。季節もこれから冬本番だし、辛いのはこれからだ」
ぶら防取材班がこの地を訪れたのは2018年12月の上旬だ。
「昨日は4度くらいだったけど、今日は8度くらいになるだろうなぁ」
男性はスコップの柄に体を預けてつぶやいた。
北海道民は冬の気温に、いちいち「マイナス」をつけたりしない。8度といえば氷点下8度のことだ。
「これから雪ももっと降りそうだし、こうしとかないと車の出し入れが面倒になる」
掻き出した雪をスコップでならしながら男性はいった。
「仮設の暮らしはいかがですか」(渡辺氏)
「よくもねぇけど、仕方ない。なんでも北海道仕様ってことで、玄関には雪風を防ぐ風除室もつけてくれたし、床とか壁の断熱材もほかより厚くいれてあるらしい。あと、裏の窓にも雪よけの板を張っつけてあるんだ。助かってるよ。この仮設に居られる期限は2年間ってことだけど、でも、こんなとこに2年も住みたくはないな」(男性)
渡辺氏は作業の手を止めさせたことを詫び、その場を後にした。
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