莫大な経済効果

「でもこの放水路があるとないとじゃ全然違います。壊滅的な量の雨が降ったとしても時間稼ぎができます。この放水路が雨水をどんどん溜め込んでいるあいだに避難することができる。これは大きい。

 もちろん首都圏外郭放水路が整備される前から、他にもいろいろな河川域で対策が行われてきた。江戸時代から洪水との戦いだった利根川は、明治以降も堤防の強化や排水機場を新たに作るなどの大掛かりな河川工事が行われ、スーパー堤防の建設など、総合的な治水工事が実施された。また荒川は「荒ぶる川」が名前の由来だとされるほど氾濫の多い河川だった。明治から大正にかけては21キロメートルに及ぶ地上型の放水路を整備。上流部分も大正・昭和にかけて整備が行われた。

 この首都圏外郭放水路が完成したおかげで被害はどのくらい軽減されているのですか」(渡辺氏)

“防災の鬼”渡辺実氏

「外郭放水路だけの効果ではありませんが、数字で表現するなら、放水路が完全に可動する前の2000年は浸水の面積が137ヘクタールで浸水戸数が248戸でした。これが、放水路が全域で可動を始めた2006年には33ヘクタールの85戸にまで減少しています」(長氏)

「それはすごいですね。浸水面積で約25%、浸水戸数で約35%まで減らすことができた。金額にするとどのくらいだろう?」(渡辺氏)

「完成してから10年間で、1008億円分の被害を食い止めたとの試算があります。建設費が約2300億円でしたので、ざっくりいうと10年で半分に相当する効果があったということです」(長氏)

「そもそもの建設費が2300億円でしょ。イージス・アショアに何千億円も使うよりずっと経済効果が高いと思いますよ」(渡辺氏)

「これまで最大の処理実績は、2015年9月の関東・東北豪雨です。1900立方メートル。東京ドーム15杯分の雨水を処理しました」(長氏)

「鬼怒川の堤防が決壊したあの豪雨ですね。この連載でも取り上げました。でもそんなに大量の水を集めて江戸川に流すわけですよね。江戸川のほうは大丈夫なのですか?」(渡辺氏)

「首都圏外郭放水路から江戸川に流す水は、周辺で降った雨、つまり比較的近場で降った雨を集めて強制的に江戸川に排水します。ですから、降雨後に早いタイミングで流すことができる。一方、江戸川そのものは南北に長い河川です。上流で降った雨を集めながら流れてきますから、江戸川の水位が最も上昇するタイミングでは首都圏外郭放水路の排水は終わっているのです」(長氏)