「やっぱりオレはここが好きなんだ」の思い

 うみラボの調査に好意的な水産業関係者も多いそうだが、必ずしも一枚岩ではないようだ。

「通常の調査は漁協が窓口になります。我々の調査も正当な手続きを踏んでいますが、見え方は、市民の調査チームが独立してやっているように見えるはずです。そんななか、我々の調査で100ベクレルを超えるような結果が出てしまったら、『福島の海はどうなってるんだ』という問い合わせが漁協にも行くでしょうし、現場が混乱するという危惧があるのでしょう。そういうリスクがあるので、漁協側はうみラボの活動には全面的には賛成していないはずです」(小松氏)

 今回の取材では、地元の漁師さんから話を聞くこともできた。

 福島の漁業の再生を願っている石井宏和氏は、相馬双葉の漁協に所属する釣船の船長さんだ。彼は東日本大震災の巨大津波で当時1歳半の娘さんが行方不明になっている。

釣船・長栄丸の船長石井宏和氏

「発災の直後、海の近くにある自宅が心配で様子を見に行きました。家族みんなの安全を確認できたので、船を津波の危険から逃がすために沖に出したのです。ところが予想以上に大きな津波が娘と祖父の命を奪ってしまった。しばらくは船に触わることもできなかったけど、震災から少し経過して、調査漁などで船の操縦をしたとき、『やっぱりオレはここが好きなんだ』と改めて思ったんです」(石井氏)

 石井氏の釣船は今年の8月、ついに営業を再開した。

「お客さんはまだまだ少ないですが、それでもこれでやっていこうと思っています。大げさな言い方ですが、僕らの再生が、日本の漁業の未来を占うと思っているんです」(石井氏)

 取材を終え、雨に煙る福島の海を見て“防災の鬼”渡辺氏は次のように語った。

「原発事故から6年半、避難指示解除から半年が経過した今、福島の海や魚がどうなっているのか。報道も減少し、すっかり国民の関心が薄れている。しかし、福島の魚は危ないと多くの国民が思っているだろう。ほんとに危ないのか、どうなのか。ここアクアマリンふくしまでは、一般の方の参加を得て船を出して実際に福島沖で魚を捕っている(うみラボ)。そして一般の入場者の前でその魚の放射線量を計測して、安全を確認できた魚を食べてもらっている(調べラボ)。この『うみラボ』『調べラボ』が継続してやっている活動は、原発事故の評価を感覚的ではなくデータで示し、安全な福島の魚を食べるという行為で福島の海・魚の現状を情報発信し続け、国民へ語り続けている非常に重要な活動ですね。もっとメディアが感心を持つべきだと思う。

 さらに今回ここへ来てお話しを伺った、賠償金が漁業の復興を遅らせるという現実。その背景には日本の漁業がもつ現実的な課題へつながる大きな問題があるということ。いつも大災害は、被災地が持っている潜在的な地域の持っている課題を、一気に顕在化させるんだ。ただ、原発事故を起こしたんだから東電からの賠償金は絶対に必要なものだ。しかし支給の方法や期限、時期については福島の漁業の将来像をふまえ、一律ではなく地域性に着目して漁業の復興を超ドメスティックにもっと、もっと議論が必要だと痛感しましたね。

 全国各地の原発が再稼働の秒読みを始めている今、福島の海をもう一都真剣に見直す必要がありそうです」