住み心地を体験してもらえた

 帰還したトレーラーハウスを設置した後、清水国明氏と渡辺実氏の対談となった。

 まずは渡辺氏が帰還したトレーラーハウスたちを見て感慨深げに一言。

「帰ってきましたねぇ」

 清水氏も笑いながら答える。

「ちょっと寂しかったですけどね。実際にはこういうのが活躍しないほうが本来はいいんですが、最近は毎年のように国内で大規模な災害が起こっていますから、今後もどんどん出番が増えるでしょうね」

「まずは、熊本の今回のプロジェクトを終えて、率直な感想は?」(渡辺氏)

「ここ(レスキューRVパーク)が立ち上がったのが去年の暮れでしょ。それにしたっていろんな意味で見切り発車だったのに、わずか半年後に実際に熊本地震が起きた。だから本当に背伸びのつま先足立ち状態で熊本の益城町への出動プロジェクトをスタートさせたんです。

 とにかくトレーラーハウスを出してから、というか、出しつつ、その移動費用をどうするのかとか、これ(トレーラーハウス)を全部キャッシュで買ったわけじゃないからその返済をどうするかとか、走り出しながら考えました。細かいことは後から考えよう。収支はあとから合ってくるだろうと。僕って何でもそうなんです(笑)」(清水氏)

「熊本県益城町でトレーラーハウスを設置したのは県有地のグランメッセ熊本駐車場という場所でした。ここを拠点に30棟のトレーラーハウスを投入した。私は現地に3回ほど足を運びましたが、ずらっと並んだその様子を見て感動しました。被災者にとっても驚きと感動があったと思います。驚きと感動の後に喜びがついてくる。この3点セットがトレーラーハウスのキーワードだと思っていますよ。

 今回は一般の仮設住宅ではなく、避難生活に何らかの助けが必要な方々のための福祉避難所としての運用でした。しかし、最初に到着したトレーラーハウスを一般の被災者の方々も見にいらっしゃる。そして『私たちも、ここに入りたい』っておっしゃっている方々が本当に多かった。既存の避難所環境や仮設住宅とトレーラーハウスでは、“住まい”としてのグレードがあまりにも違いますからね」(渡辺氏)

 各被災地で多く見られるいわゆる応急仮設住宅は、その名の示すとおり、「仮りの住宅」である。一般にプレハブと呼ばれる工法が採用されている。壁が薄く、並んで建てられれば、隣の家族の「ティッシュを抜く音」まで聞こえるという。断熱効率も悪い。冷暖房が効きにくいし、結露などでカビの侵食も激しい。

「トレーラーハウスはもちろん戸建ての家より狭いのですが、家としての機能は十分です。今回は福祉避難所としての運営ですが、その住み心地を体験してもらえたことは、まずは大きな一歩だと思っています」(清水氏)

「しかしそうは言っても、いろいろと問題を抱えていらっしゃるはずですが」(渡辺氏)

「そうですね、やっぱりお金のことは大きい。私たちは完全に民間でやっているので、経済的な負担がボディーブローのようにじわじわと効いてくる。だからこの先、私たちがこの運動を継続していくためにはやっぱり国や自治体、もしくは多くの有志企業などの協力が是非とも必要だと思っています。

 我々だけの自己満足になってしまってはいけない。広がってなんぼのプロジェクトだと思うんでね」(清水氏)

 災害は待ってくれない。4月の熊本地震の後も、台風10号の影響で北海道や岩手県で甚大な被害が発生した。清水氏としては自治体からの要請があればすぐにでも動く態勢だが、今のところその方面からの依頼はない。

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