池袋駅の駅長・上野貞行氏(右)と渡辺実氏
9月1日は防災の日。この日は毎年、JR東日本の大規模な避難訓練が行われる。都心南部を震源とするM7.3の地震を想定し、避難誘導から初期消火、負傷者の移動など本格的だ。これまで様々な鉄道施設の防災計画に携わってきた“防災の鬼”渡辺実氏も興味津々。池袋駅の訓練に密着した。

《20●●年。●月●日。午前7時00分、都心南部を震源とするマグニチュード7.3の大地震が発生。首都圏の列車が運転中止となり、列車脱線や駅舎一部倒壊により多数の人的被害が生じる》

 以上は訓練のための想定である。

 1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災にちなみ、9月1日は防災の日に指定されている。JR東日本では毎年この日、各支社が一斉に防災訓練を行う。参加総数は2万人規模だ。

 1日の乗車人員がトップの新宿駅(76万9307人、JR東日本まとめ)に続き、2位の池袋駅(55万9920人、同)の訓練を視察に来た“防災の鬼”渡辺実氏。

 「鉄道施設の姿というのは、地方の単線鉄道の駅を思い浮かべていただけば分かる通り、『線路とホーム』です。これが基本。ところが池袋のような巨大ターミナルになってくると、これは別物。複数のショッピング施設やレストラン、地下街、遊戯施設など複合商業ビル1棟分くらいの規模はゆうにあります。鉄道もJRだけでなく、西武、東武、地下鉄と平面だけでなく上下にも広がっている。そこに、池袋駅であれば1日56万人の人間が通過し、とどまる。どんなに巨大な商業施設でもこの規模の人間は集まりません」

 例えば、東京ディズニーランドですら1日の平均入場者数は8万2000人程度だ。一方池袋駅の1日の乗降客は約56万人。ざっくり表現すると、池袋駅の平面積は東京ディズニーランドの7分の1程度。そこに東京ディズニーランドの約7倍の人間が通過している計算になる。毎日大きな事故なく運営されているだけでも奇跡だ。

 首都直下の地震が直撃すればどうなるのかなど、「実際のところ誰も正確に予想することはできない」(渡辺氏)のだ。

 訓練の陣頭指揮をとる池袋駅の駅長、上野貞行氏に話を聞いた。

 「東日本大震災当時、私は秋葉原駅の駅長をやっていました。あの日午後2時46分。今でも忘れません。私は駅長室のデスクで仕事の最中でした。震災以前も9月1日の防災訓練は行われていたのですが、あの経験以降はやはり意識が大きく変わりました。何よりもお客様の安全を守ること、またハンディを持っている方々の避難を安全かつ迅速に行うこと。これが何よりも大切だということを痛感しました」

 東日本大震災以降、バリアフリー化も急速に進んでいる。2011年当時はJR東日本管内のエレベーター設置は469駅で1066基。エスカレーターは360駅で1716基だった。これが約6年が経った2017年3月31日時点ではエレベーターが533駅で1224基。エスカレーターが372駅で1823基となった。

 この点については渡辺氏も上野氏も同じことを指摘する。

 「でもね、巨大地震が起こったらエレベーターもエスカレーターも全部ストップしてしまう可能性が高い」(渡辺氏)

 「そうなんです」(上野氏)

 だからこそマンパワーが大切なのだと上野氏は続ける。

 「ご自身で動ける方は速やかに安全を確保できる避難場所にご案内する。そしてハンディをお持ちの方、ケガをなさっている方に対しては我々が手助けをしながら誘導する。滞りなく遂行するためには、今回のような合同の防災訓練がぜひとも必要なのです」(上野氏)