東日本大震災で実感したサプライチェーンの重要さ
「防災についてはとくに東日本大震災を契機に見えてきた教訓をベースに、ここ数年急速に強化されています」(奥田氏)
石油精製元売り会社は原油を輸入し、国内で精製してガソリン・灯油・軽油・重油などの製品を作る。ユーザーの元にはガソリンスタンドや灯油販売店などを通じて渡っていく。上流から下流へ、いわゆるサプライチェーンが滞りなく行き届いているからこそ、自動車は走るし、石油ストーブが灯る。

「ただ、大きな災害が起こると、このサプライチェーンが寸断されます。東日本大震災は日本の石油サプライチェーンがいかに脆弱であるかを我々に教えてくれました」(奥田氏)
「電気やガスは電線やパイプが寸断すれば輸送は難しい。一方、石油はドラム缶に詰めればどこにでも持っていくことができる。そうした簡便性が石油の強みの一面でもあるわけですね。でも災害時にこの強みを発揮することができなかったということ。その原因はどういったところにあったのでしょうか?」(渡辺氏)
「一面で仕方ないことなのかもしれませんが、まずはあれほど大規模な津波に対する備えが十分ではなかった。これが第一の教訓です。また情報の収集がうまくいかなかった。大混乱の中で一時は電話も通じない状態です。例えばガソリンスタンドがどれだけ閉まっていて、どれだけ営業しているのか、どのスタンドにどのくらいの在庫があるのか、全く知ることができない。
そしてもう一つ。石油製品がなければ被災地にある自家発電機などを稼働させることができない。石油を持っている人にどうやったら効率よく届けることができるか、という基本に立ち返ったとき、いくつかの見落としに気付いたということです」(奥田氏)

「“サプライチェーンの脆弱性”“情報収集の不備”そして“基本的な見落としへの気付き”。こうした課題が見えてきたということですね。具体的に現場ではどのようなことが起こっていたのですか?」(渡辺氏)
「関東から東北地方には9つの製油所があります。東日本大震災の時には、このうち6つの製油所が生産を停止しました。そのうち3カ所は製油所の安全のために緊急停止したものですが、いったん止めた製油所を再び稼働させるためには安全点検などを行う必要があるので、通常であれば2週間程度を要します。加えて他の3カ所では大きな被害が出ました。宮城県仙台市のJXエネルギー仙台製油所などは津波のために大規模な火災が発生しました」(奥田氏)
「3.11の当日、私は民放テレビ局のスタジオにいたんですが、ヘリから真っ赤な火柱を上げている空撮映像が入ってきて騒然としました。千葉県のコスモ石油もかなり大きな火災でした。こちらは大きな揺れによる球形タンクの落下が原因でしたね」(渡辺氏)
「ここ(大手町、経団連会館17階)からも、火災の煙が確認できたほどです。当時はちょうど点検中だったらしく、普段は比重が0.58の液化石油ガスが入っているのですが、点検のためにこれを抜いて、点検終了後にタンク内の空気を除去するために比重1の水を張っていたそうです。つまり普段より重いものが入っていた。そこに想定以上の大きな揺れが直撃し、タンクが落下。その衝撃で複数の配管が断裂し、ガスが漏れ出したことで火災が発生したようです。不運も重なった災害といえます」(奥田氏)
9つある製油所のうち6つの操業が停止した。そのために一時的な石油不足が関東以北を襲ったというわけだ。
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