「遺構をどう残すのか」の参考に
渡辺氏は続けてこう言う。
「今、東日本大震災の震災遺構がいろいろな所で問題になっています。自治体や学校側の責任が問題視されて裁判が続いている石巻市大川小学校の場合もそう。遺構として残すことは決まっているのですが、どういう形で残していくのか、何を残していくのかなど、大震災から7年以上も経っても細かいところはまだ全然手がつけられていない」

2011年3月11日に発生した東日本大震災。地震から50分後に三陸海岸から5キロメートルにある石巻市立大川小学校が河川を遡上してきた津波にのまれた。校庭にいた78人のうち74人の児童と校内にいた13人のうち10人の教職員が犠牲となった。校内の時計は津波に襲われた時間で止まっている。
「大川小学校の場合、現場に被災校舎という現物は残っています。あとは人です。ご遺族の方々とどのように合意を取り、遺構を訪れる人たちに災害の教訓をどう伝えていくのか。JALの安全啓発センターの言う『3つの現』の考え方がとても参考になると思っているのです」(渡辺氏)
取材の最後、辻井氏に対して渡辺氏は次のような質問をした。
「もし今後、JALの飛行機が事故を起こし、人が亡くなるようなことがあったとしたら、このセンターはどうなるのですか? もしかしたら閉鎖かな?」
「もちろんあってはならないことですが、万が一そうした重大事故が発生したとしても、我々はその事実から目を背けてはいけないと思っています」(辻井氏)
取材を終えて“防災の鬼”渡辺実氏は、天を仰ぎこうつぶやいた。
「事故はあってはならない。しかし、想定外の場所・時間・状況で想定外のことが起こるからこそ、地球上から事故はなくならない。ただ少しずつでも減らしていくことはできるはず。いや、減らさなければならない。そのためには徹底的な事故原因の究明、情報の公開、改善策の実施、そして事故を後生へ伝えることが必須で、ここ日本航空安全啓発センターの取り組みはその礎となっている」

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