「だから、ひとたび大きな災害が発生すると、キー局から番組ごとにクルーが乗り込んできて現場を仕切ってしまおうとするんです。そして東京の欲しがる情報を集めようとする。でもこれじゃ被災地の地方局の意味がありません。ローカル局にはローカル局の役割がある。その部分を事あるごとに指摘しながら、放送をサポートするわけです」

 渡辺は被災者目線に立って、その人たちがどのような情報を欲しているかを先読みしながら番組を進めていくことを提案し続けた。

「私は『ネコ砂トイレ(Zioトイレ)』について、ローカル特別番組の中でお話ししました。震災が起こって、最初の24時間は飲料水と食べ物の確保に追われます。しかし、断水や停電によって水道がでなくなり水洗トイレが使用不可能になる。この災害時トイレの対策がこの国では最も遅れていて、トイレに行きたくないから水や食事を控える。その結果体力を落として感染症にかかりやすくなる、という悪循環に陥る。

 ペットの問題もそうですね。どの災害現場もそうですが、震災の直後は飼い主からはぐれたペットたちが辛い思いをします。またペットと一緒に逃げた家族も多い。しかし避難所にペットと一緒に避難できない、ペットへの支援もうったえました。

 さらに余震が続く中、車中避難が多かったので、エコノミークラス症候群への注意勧告も16日から先取り情報として放送していきました」

 山間地であれば穴を掘って排泄物を埋めればいいが、熊本市内となるとそうもいかない。“防災の鬼”渡辺実は、すでに大震災になった被災地の現状をふまえ、新聞紙を使った簡易型災害時トイレの作り方を番組で紹介した。

「ダンボール箱の中に細かくちぎった新聞紙を敷き詰めるだけの簡単なものですが、これがけっこう役に立つわけです。被災地の現状に合わせた情報が必要なのです。こうした情報を被災者にニーズに合わせて随時、的確に流すのがローカルの役目なんです。キー局の応援クルーは1週間後には随時撤収していきますからね。でも地元の被災は終わらない。だから被災地の地元局はいかに地域に密着した情報を流し続けるか、キー局の言うことばかりをきいてたらダメなんですよね。そういうことをアドバイスするわけです」

 またテレビを見ることから得られる「安心感」も大切だと“防災の鬼”渡辺実は指摘する。

「キー局からレポーターやアナウンサーがどんどん現地入りしますが、地元の人たちはそういう“現場と関係ない人”の顔を見たいとは思っていない。日々放送されている地元発の番組に登場する地元のアナウンサーの口から出る情報を聞きたいし、そのアナウンサーの顔を見たいと潜在的に思っている。だからできるだけ地元アナが顔出ししてニュースを読むようにしてくださいと、アドバイスします」

鬼も驚いた直下の本震

 15日はKKTでの番組作りで時間が過ぎ、熊本市中心街のホテルに到着したのは夜中の12時過ぎだった。

「そのホテルは、電気は来ているんだけど水がまだ出ない。さらに余震が続いていますからエレベーターも動かない。水が出ないからコンビニでペットボトル入りの水を買って、非常階段を登る。僕は7階に宿泊したんだけど、まさに『高層難民』に自らなってしまった。いやこれが老体にはけっこうきつかったね(笑い)」

コンビニに水はかろうじてあったが食べ物はほとんどなし(15日夜のコンビニ)