「イノベーションで飯は食えない」
「福島県浜通り地区のイノベーション・コースト構想ですが、これって何でしょうね。地元では歓迎する声もかなりあります。なぜなら『雇用を創出し、活性化を約束します』といった告知がされていますから。地元では『イノベ』がくるから安心だ。というようないい方をする人もいるくらいです。でも実際はどうなのか、私自身はイノベで飯は食えないと思っていますけどね(笑)」(遠藤氏)

「私には娘が2人います。上が中学生で下が小学生。6年という時間が経過して、下の娘は被災後の人生のほうが長くなってしまった。妻と娘たちは東京に住んでいて、私は福島の観陽亭に単身赴任です。故郷の復興のためにという思いでやっているのですが、そういう話をしても娘たちは『それはお父さんの故郷だよね』なんて感想を漏らします。ちょっと悲しいですよ」(遠藤氏)
「原発事故さえなければ娘さんたちだって富岡町を『私たちの故郷だ』と胸を張れたはずです。そうできなくなっていることは非常に悲しく残念であり、かつ重要なことだと思う」(渡辺氏)
汚く染まると書いて「汚染」。しかし、福島は決して汚い場所ではない。「県民はもっともっと怒るべきだ、怒りを忘れてはいけない」と“防災の鬼”渡辺実氏は言う。
遠藤さんと別れた“防災の鬼”渡辺実氏は、苦言を呈した。
「福島浜通りのイノベーション・コースト構想ですが、設立の主意を見ると『2020年を当面の目標として、各プロジェクトの具体化を進め、浜通りが新たな産業革命の地となり、福島県全体の復興、ひいては日本の地域再生のモデルとなることを目指す』と書いている。つまり東京オリンピックまでにすべてをご破算にしたいということでしょう。でも実態は全然先が見えない状況であることに変わりはない。これはあと3年後の2020年を過ぎてもたぶんこのままでしょうね。我々はこれからも、原発事故の被災地・被災者を決して忘れてはいけない!」(渡辺氏)

富岡町でこの4月に避難解除の対象となった住民は9500人余り。帰還に向けた生活再建のための「準備宿泊」を登録している人はおよそ350人。復興庁などの意向調査で、「町に戻りたい」と回答した住民は僅か16%。
これが6年が経過した福島第一原発事故被災地の現実なのだ。この厳しい現実のなかで必死に生きて行かざるを得ないのは、福島第一原発事故があったからであり、今村復興大臣が言った「自己責任」ではない!
福島取材を終え、東京にて本原稿をまとめている最中。渡辺氏に遠藤氏から連絡が入った。
「時間が掛かったのですが、渡辺さんを同行しての帰還困難地域への立ち入りが許可されました。さらに現実を見に、我が家にいらっしゃいませんか?」
4月1日、富岡町で避難解除されたのは、居住制限区域と避難指示区域。実は帰還困難区域は、まだ立入申請をしないと入ることができない。その帰還困難区域に外部の人間を同行しての立ち入りが許可されたというのだ。こんなお膳立てをされて、“防災の鬼”がひるむわけにはいかない。時間をおくことなく、再度福島県富岡町行きを決意する渡辺氏。次回はその様子をレポートする。
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